平民彼氏の落とし方

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平民彼氏の落とし方

シンは一向に私の両親に会ってくれようとしなかった。 この間の任務で活躍した手当てが入ったらしく、実家にまとまったお金を入れられたから土日も遊びに行けるのだとかで、最近は休みの日にも一緒に出掛けてデートをしている。 ついでに我が家に寄って行ってとお願いしても、はっきり断られてしまうんだけど。 今日は小さな村の川辺にあるオーベルジュ(※宿泊施設付きレストラン)にやってきた。 私は泊りがけなのかと思っていたのに、朝から夕方までの半日滞在プランなるもので朝ごはんから一緒に食べることになっている。 早起きして一緒にオーベルジュに着くと、部屋の窓際で小川のせせらぎを聴きながら朝食を食べた。 素朴なパンと卵焼き、それにハムが並べられた朝食。 好きな人と一緒だと、どんなご馳走よりもありがたい。 「ねえ、このお部屋、夕方まで使えるんでしょ?」 私は新婚気分で部屋を見回す。こぢんまりしているけれど、かわいい花柄の掛布が掛かったベッドに、お風呂が付いた滞在部屋だ。 「うん。今朝は早かったから仮眠でもとろうか?」 「それよりも、一緒にお風呂に入るのは?」 「……いや、それは……」 試しにこういうことを言ってみても、いつもはぐらかされてしまう。 相変わらずシンに結婚の意志はないらしく、つまり私との未来はないと割り切っているからか大人の男女の関係にもならない。 深い仲になりたいと思ったことはないけれど、シンには前に付き合っていた人の影がある。 その人とは普通にそういうこともしていたみたいなのが、ムカついてムカついて仕方がない。 好きな人の過去の恋人に嫉妬したところで、どうなるわけでもないのだけれど。
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