第一章・・・十六歳の殺人鬼。

1/8
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ

第一章・・・十六歳の殺人鬼。

幼い頃、母は言った。 『…泉澄(いずみ)。 偉いわね…今回のテストも、満点じゃない! 今から泉澄の将来が楽しみで仕方がないわ。』 それは、嘘偽りの無い笑顔で。 父も同様に母の意見に頷いた。 『泉澄なら、私の仕事を継ぐに値する、素晴らしい人になれるさ。』 僕は気付いていなかった。 知らずに文字通り、子供みたいな純粋な表情でこう返した。 『そしたら僕は、お母様とお父様にとっての“自慢”になれる?』 僕の問いに、二人は顔を見合わせて声を揃えた。 “勿論”と。 無垢な子供にとって、自分が親の誇りになれるという事は、嬉しい以外の感情を持ち合わせていなかった。 自分にとっての唯一の存在が、自分と同じ様に自分の事を想ってくれるのだ。 ならば、僕は必死にそれになろうと、両親の本当の言葉の意味に背を向けたまま、ペンを走らせる日々が続いた。 ──────それから十年後…… 「ヒィイイ!!!…お、お願いだ!!! 家族が居るんだ…こ、殺さないでくれ!!!!!」 どっかのお偉いさんだと名乗っていた髪の毛の薄い、肥満気味の男が、先程まで“可愛いなぁ…ねぇ、一回十万でどう?”とベタベタベタベタ…オレの身体を触っていたクセに、オレが銃口を向けた途端、尻もちを着いて、産まれたての赤子の様に悲鳴をあげる。 耳障りな声を人差し指で塞ぎ、額に銃口を突き付ける。 「シッ……オジサン、煩いよ。 キンジョメイワク、でしょ?? あーでも残念、周りオレ達以外だ〜れも居ないんだよね。 泣いて縋っても無駄。 オジサンさ、オレを犯そうとしたんだから殺されて当然でしょ? 寧ろ良かったじゃん。 犯したい程好きな人に殺してもらって♡」 オレがそう言うと、オジサンは更に怯えながら無駄な後退りをする。 壁まで追いやると、撃鉄を起こす音にオジサンの身体はビクンッと死を悟り、藁にも縋る思いで勝手に交渉をしだした。 「お、お金が欲しいなら幾らでも出すから!!!! 殺すのだけは、殺すのだけはやめてくれ!!!!!!」 「ねぇ、その耳は飾りなの? 黙れ、っつってんだろ。」 ──────…ッドン!!!!!! 一瞬、銃声が鳴り響く。 「っあ゙あ゙あ゙ぁぁあああア゙ッ………」 容赦無く発砲された弾丸は、オジサンの前頭葉を撃ち抜き、カラン…と音を立て、血飛沫と共に地面に落ちる。 すっかり見慣れてしまった死体に、罪悪感や焦りなんて感情は微塵も無く、手馴れた手つきで今日もまた死体処理を依頼する。 この後もう一人殺さなければいけないのに、服や身体はドロドロとした返り血で染まり、あのオジサンの血と考えるだけで嗚咽しそうだ。 「はぁ……穢。」 毎日毎日課せられる“殺人鬼”のレッテルに溜息を吐きながら用意されている服に着替え、お気に入りの白い翼が刻印された銃を忍ばせ、またオレは“次の予定”へと足を進める。 鐘城 泉澄(かねしろ いずみ)、十六歳。 立派な殺人鬼になったオレでも両親は“自慢”と言ってくれるだろうか。 既に亡き両親を思い浮かべ、『ざまぁみろ。』と、オレは靄のかかった空に嘲笑った。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!