25人が本棚に入れています
本棚に追加
どんな生温い人殺しをした所で、陽は昇る。
眩しいくらいに穢れた罪の数を照らし、オレを見下すその存在が鬱陶しくて舌打ちを一つその場に落として、オレは僕になる。
別に二重人格な訳では無い。
それが、殺人鬼として自然にこの世界を生きる為の掟みたいなもんだ。
『殺人鬼として生きるにはな、先ずは絶対に他人から真っ先に疑われない様な真っ当な人間を演じる事、だ。
此奴は人なんか殺せない。
そう思わせる自分になれ。
泉澄、お前、そういうの…得意だろ?』
…全部“お兄さん”が教えてくれた。
今日もちゃんと、演じてみせるから…ね?
誰も居ない広い家に帰り、シャワーで念入りに身体を洗い、たった数十分の仮眠をとり、目を覚ましたらここからの時間は殺人鬼じゃなくて、普通の男子高校生だ。
勿論制服は着崩したりしないし、髪だって派手にワックスで固めたりしない。
ただ整えるだけ。僕としての自分を整えるだけ。
ゼリー飲料で簡単に栄養を摂取して、家を出る。
「行ってきます。」
二回電車を乗り換えなければいけない少し遠い学校を選んだのも、素性を知られたくないからだ。
プライベートな空間に誰一人として踏み込んでほしくない。
家が近くて、もしばったり殺人鬼としての自分とクラスメイトが会ってしまった、なんて事になったら洒落にならない。
ただ少し、いや、かなり面倒だ。
片道一時間以上かかる通学時間に、ただでさえ足りていない睡眠時間に、耳障りな女子高生の雑談にイライラが募りながら、もう数え切れない程欠伸をしている。
早く着かねぇかな…。
最初のコメントを投稿しよう!