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あの後、オレはきっかり五分で滉大の腕の中から逃れ、なんとか予定に間に合い、ちゃんと始末してあげた。
今回は暗殺の為、どうしてもお気に入りの銃は使えず、仕方無く仕込んでいたナイフで相手の頸動脈をぶっ刺した。
が、当然距離が近い分強い力で抵抗されてしまった為、中々綺麗にトドメが刺せず、気持ちの良い殺人にはならなかった。
「やっぱり、ナイフよりチャカの方がしっくりくるんだよな〜。毎度洗うの面倒いし。
それに…ナイフはお兄さんがくれた物じゃないし。」
洗い終わったナイフを仕舞うと、白い翼の刻印に手を触れ、寂しい気持ちが募る。
「会いたいよ…お兄さん。」
“お兄さん”とは…
幼い頃、オレの両親を殺してくれた、オレの殺人鬼としての師匠である。
素性は何も知らない。
名前すらも知らない。
でも、オレはあの光景を“美しい”と思ってしまった。
両親が悲鳴を上げながらその血が宙を舞い、月夜の灯りで照らされる、『俺は…この時をずっと待ってた。』と笑ったお兄さんの狂気の表情。
哀しい筈なのに、怖い筈なのに、その時オレもお兄さんと同じ表情をしていた。
異常…だろうか。
そうだろう。
きっとその感情が、普通なんだ。
オレは、最初からもうとっくに普通なんかじゃなかった。
だって仕方無いだろう?
あの人達は“殺されて当然の人”だったのだから。
救えない命にお情けなんてかけてたまるか。
所詮オレは、あの人達にとっての操り人形でしかなかったのだから。
だからオレはあの時、『お前も一緒に来るか?』と両親の血で濡れた、差し出された手をとった。
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