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第一章・・・十六歳の殺人鬼。
幼い頃、母は言った。
『…泉澄(いずみ)。
偉いわね…今回のテストも、満点じゃない!
今から泉澄の将来が楽しみで仕方がないわ。』
それは、嘘偽りの無い笑顔で。
父も同様に母の意見に頷いた。
『泉澄なら、私の仕事を継ぐに値する、素晴らしい人になれるさ。』
僕は気付いていなかった。
知らずに文字通り、子供みたいな純粋な表情でこう返した。
『そしたら僕は、お母様とお父様にとっての“自慢”になれる?』
僕の問いに、二人は顔を見合わせて声を揃えた。
“勿論”と。
無垢な子供にとって、自分が親の誇りになれるという事は、嬉しい以外の感情を持ち合わせていなかった。
自分にとっての唯一の存在が、自分と同じ様に自分の事を想ってくれるのだ。
ならば、僕は必死にそれになろうと、両親の本当の言葉の意味に背を向けたまま、ペンを走らせる日々が続いた。
──────それから十年後……
「ヒィイイ!!!…お、お願いだ!!!
家族が居るんだ…こ、殺さないでくれ!!!!!」
どっかのお偉いさんだと名乗っていた髪の毛の薄い、肥満気味の男が、先程まで“可愛いなぁ…ねぇ、一回十万でどう?”とベタベタベタベタ…オレの身体を触っていたクセに、オレが銃口を向けた途端、尻もちを着いて、産まれたての赤子の様に悲鳴をあげる。
耳障りな声を人差し指で塞ぎ、額に銃口を突き付ける。
「シッ……オジサン、煩いよ。
キンジョメイワク、でしょ??
あーでも残念、周りオレ達以外だ〜れも居ないんだよね。
泣いて縋っても無駄。
オジサンさ、オレを犯そうとしたんだから殺されて当然でしょ?
寧ろ良かったじゃん。
犯したい程好きな人に殺してもらって♡」
オレがそう言うと、オジサンは更に怯えながら無駄な後退りをする。
壁まで追いやると、撃鉄を起こす音にオジサンの身体はビクンッと死を悟り、藁にも縋る思いで勝手に交渉をしだした。
「お、お金が欲しいなら幾らでも出すから!!!!
殺すのだけは、殺すのだけはやめてくれ!!!!!!」
「ねぇ、その耳は飾りなの?
黙れ、っつってんだろ。」
──────…ッドン!!!!!!
一瞬、銃声が鳴り響く。
「っあ゙あ゙あ゙ぁぁあああア゙ッ………」
容赦無く発砲された弾丸は、オジサンの前頭葉を撃ち抜き、カラン…と音を立て、血飛沫と共に地面に落ちる。
すっかり見慣れてしまった死体に、罪悪感や焦りなんて感情は微塵も無く、手馴れた手つきで今日もまた死体処理を依頼する。
この後もう一人殺さなければいけないのに、服や身体はドロドロとした返り血で染まり、あのオジサンの血と考えるだけで嗚咽しそうだ。
「はぁ……穢。」
毎日毎日課せられる“殺人鬼”のレッテルに溜息を吐きながら用意されている服に着替え、お気に入りの白い翼が刻印された銃を忍ばせ、またオレは“次の予定”へと足を進める。
鐘城 泉澄(かねしろ いずみ)、十六歳。
立派な殺人鬼になったオレでも両親は“自慢”と言ってくれるだろうか。
既に亡き両親を思い浮かべ、『ざまぁみろ。』と、オレは靄のかかった空に嘲笑った。
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