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さて、兎にも角にもこの場を離れなければならない。街や村がどの辺りにあるのかサッパリ検討が付かないが、まあ何とかなるだろう。
かなり消耗しているケディは車内に押し込んで寝かせた。俺はさっきと変わらずターレットリングの上に腰を下ろす。景色は相変わらず木々が広がっているので、そろそろ変化が欲しい。
「なあセンチュ。何か見えないのか? もうそろそろ木を見るのは飽きて来たんだが」
「そう言われましても困りますわ。私だってこの森から早く抜け出したいのですが……って、あら?」
「何か見つけたか!?」
センチュの声に俺も反応する。何でも良いから、この鬱蒼とした森に変化が起きて欲しいのだ。
「小さな村みたいのが見えますわよ。人影も見えますわ」
「何でも良い! そこに立ち寄ってくれぇ!」
「は、はい。物凄い食い付きですわね」
数分もすると、センチュの言っている小規模の村が見えて来た。ポツポツと人らしき物も見える。
向こうも俺たちに気が付いたらしい。一気に人影が増えた。
……いや、何か様子がおかしいぞ。それなりに距離はあるはずなのだが、ここにまで叫び声が聞こえる。
「歓迎されてませんわね」
「やっぱり? もしかして武器持ってる?」
「ええ、持ってますわ。槍とか弓矢とかですが。あ、杖らしき物を持ってる人も居ますわよ」
ふむ、基本は原始的。杖を持ってるのは魔法使いだろう。原始武器は放って置くとして、問題は魔法だ。センチュの装甲でどれだけ耐えられるかどうか。
センチュの装甲はそれなりに堅牢。しかし、魔法と言う未知の攻撃に耐え得るかはサッパリである。
「しゃあない。センチュ、戦闘準備だ。俺が観測と操縦指示をする」
「了解ですわ」
ハッチを開けて中へ。中では気持ち良さそうにケディが寝ている。
すまんケディ。かなり大声で喋るから起こしてしまうかもしれん。どうか許してくれ。
望遠鏡を覗き込む。村人と争いは極力避けたかったが、最低限の自衛行動はしなければなるまい。
魔法攻撃らしき何かが……来た!
「センチュ、攻撃が来る。右20°に旋回しろ。数メートル進んだら逆方向に20°旋回して再度直進だ」
グインッと戦車が揺れる。そして数秒後、後方で何かが炸裂した音が聞こえた。おそらくは火球である。あまり食らいたくはない。
その意を汲んだのか、センチュは即座に行動を開始。履帯が外れるか否かの瀬戸際でドリフトを行って火球を次々と回避していく。
「今なら絶好の射撃チャンスですわよ?」
「うし。HESHは装填してあるな?」
「もちろんですわ!」
HESH。別名「粘着榴弾」だ。我が祖国が開発した、対戦車においても強烈な破壊力を有する榴弾である。着弾と同時に対象へ引っ付いて爆発し、装甲の内部にまで余さず衝撃を伝えると考えてもらいたい。
爆発範囲はそこそこ。威嚇射撃するのには丁度いい。徹甲弾だと後ろにあると思われる建物まで壊しちゃいそうだし、取り敢えずHESHで様子見だ。
「……よし。撃て! あ、でも人には当てないでね」
「フフフ……お任せあれ、ですわよ!」
耳を劈く轟音。そして、少し遅れてから響く爆発音。
望遠鏡も見ると、しっかり建物の手前の地面が抉れていた。流石の精度である。いや、紅茶バイアスか?
取り敢えず、HESHの爆発によって攻撃は止んだ。驚きで動けなくなってる。
これ幸いと加速したセンチュは、そのまま抉れた地面の近くまで行くと急停車した。
「はきゃん!?」
「ぐえっ」
中の俺たち? 全く無事ではないですが何か?
特にケディは目を回している。俺は慣れてるから良いのだが、彼女に今の衝撃はちょっと酷だったろう。
だが、気にかけるのは後回しだ。まずは攻撃してきた人たちの説得である。
俺は危険を顧みずに外へ出た。
「待ってくれ、戦う意思はないんだ。無論、略奪するつもりもない。旅をしてたら、偶然ここを見つけただけなんだ」
英語通じるのだろうか。ここまで捲し立てておいて。それとケディとあんだけ話しておいてあれだけど。
と、ここでケディも外に出てきた。
「危害を加えるつもりはゼロだホヤ。ただ、ちょっとだけ滞在を許して貰いたいだけホヤ」
「……うん、そう言う事だよ。だから武器こっちに向けないでくれ」
語尾のせいで大変ビミョーな雰囲気になる。俺の気分も微妙だ。
だが、取り敢えず村人らしき集団は武器を納めてくれた。何だか向こうの表情も微妙なんだけど、まあ良いや。
わりと最悪に近いファーストコンタクトを嘆きつつ、俺は「村長呼ぶから待てやゴラァ」と言う言葉に従ってセンチュに寄りかかるのだった。
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