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まだ覚えてる…
その髪…
その息遣い…
その香り…
その手触り…
そのキス…
こんな雪の夜は…
決まって君を想い出す…
愛してた…
いや…
愛してる…
君に会いたくて…
何度もナイフを握って…
自分の喉に当て…
決まって君を想い出す…
『寛人、あなたは生きて…』
君の最期の言葉が俺をがんじがらめにする…
順也、なぜ逝った?俺を置いて…
『寛人さん…寛人さん、飲み過ぎです』
「ん…あぁ…もう帰る。タクシー呼んで貰えるか?」
『はい…寛人さん、俺が送りますよ。こんな状態でひとりで帰せません』
「ふ…憲二は優しいんだな」
『俺は弱ったあなたにつけ込みたいだけです』
「バカだな…」
『わかってるから、待ってるじゃないですか?こんな状態のあなたなら簡単に襲えますよ?』
「やめとけ…5年前に亡くなった恋人が忘れられず…こんな女々しい俺なんて…」
『はいはい、わかりましたから帰りますよ?』
「憲二…悪いな…」
『ホントあなたは…手のかかる人だ。でも俺は諦めませんよ?』
「もう…あれから5年も側に居てくれてるのに…愛してやれなくてごめんな…」
『俺がしたくてしてるんです!』
憲二は俺の秘書。そして俺の亡くなった恋人の親友だった。
双子のように育ったふたりはそれぞれに俺を愛してくれた。
事故で亡くなった順也は激しく俺を求めた。そして憲二は俺を見守り労わるように愛してくれた。
俺が愛したのは順也だ、今でも。
順也が亡くなったあの日、憲二は泣きながら俺に言った。
『これからは俺が順也の分まであなたを愛します。愛して欲しいなんて言いませんから』
俺はこの言葉に甘え続けている。
憲二を愛せたらそんなにいいだろう。この献身的な愛に応えてやれたら幸せになれるのに。
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