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――今度の日曜日、遊べる?
……ごめん、その日ちょっと用事あるんだ。
――もしかして、また新井君?
……うん。
今時の高校生にしてはたっぷりと時間を掛け、新しい年を迎え、もうすぐ二年生に上がるという頃、志緒美の口から新井君と付き合う事になったと聞かされた。
最初のきっかけこそ新井君からだったものの、蓋を開けて見れば、中学時代から志緒美の方も新井君が気になっていたというオチだった。だから私が二人を引き合わせた後は、むしろ志緒美の方が積極的だったみたい。
やっぱり私が思った通り。私と似た新井君が、志緒美と合わないはずはないんだ。
……あ、そうだ。今度めぐみも一緒に遊ばない? 新井君がね、めぐみにも会いたいって言ってるんだ。
志緒美からのメッセージに、一瞬逡巡した後ですぐさま返事を返した。
――うーん、遠慮しとく。邪魔したくないし。
……邪魔なんかじゃないってば。もし三人が嫌だったら、新井君に友達連れてくるように言ってみる?
――余計にいいよ。そういう気分じゃないし。
……えー、いいじゃん。ダブルデートとか楽しそうだし。
――無ー理ー。
会話を打ち切るように、適当なスタンプを五個ぐらい連打で送り返す。
最近は休みの度にデートを重ねるだけでは飽き足らず、学校帰りに待ち合わせしたりもしているそうだ。走り出した二人の恋は止まる事を知らず、こっちが熱に浮かされそうなぐらい燃え上がっているらしい。
私が知る新井君からは信じられないぐらいの積極性だ。きっと彼は、どんどん私の知らない人間に変わってしまうのだろう。
いつかまた彼のように、なんでも分かり合えると思える相手と巡り合える日が来るのだろうか。もし現れたとしても、新井君と同じように、私とは違う人の下へと走って行ってしまうのだろうか。
私は私が思い描いていた、私によく似た新井君への想いを抱いたまま、いつまでも前を向けずにいる。
私が背中を押した新井君はどんどん私から遠ざかっていくというのに、私は一人だけ、同じ場所に立ち止まったままだ。
私はスマホから新井君の連絡先を消した後、堪えきれなくなってほんのちょっとだけ泣いた。
私も彼のように、誰かへの恋に夢中になって走り出す日がくるのだろうか。
もちろんだよ。
「だって君は、僕に似てるだろう?」
遠い昔に聞いた彼の声を思い出す。
それまではこうして立ち止まっていよう。彼のように抑えきれない想いに突き動かされ、走り出さずにはいられなくなるその日まで。
〈了〉
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