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「私に会いたかったって、それって……」
「うん。どうしても君にしか頼めないお願いがあって」
私が見つめ返すと、新井君は恥じらうように視線を逸らし、幾つもの言葉の中から最適な組み合わせを見つけだすように、たっぷり時間を掛けた後にようやく言葉を継いだ。
「会田さんって……志緒美ちゃんと仲が良かったよね」
新井君が選びに選び抜いた言葉は明快で、その意味するところを正確に私に思い知らせてくれた。
「……もうずっと、彼女の事が頭を離れなくて。どうしても彼女に会いたくて、我慢できなかったんだ。でも連絡先も知らないし、志緒美ちゃんは確か学校までご両親に車で送って貰ってるって聞いてたから、街中で会える事もないだろうし……でも会田さんなら、きっとなんとかしてくれるんじゃないかって思って」
連絡先を知っているも何も、橋本志緒美は中学時代からの大親友だ。同じバドミントン部で、一緒にダブルスを組んで戦った事だって何度もある。今は別々の高校に分かれてしまったけど、未だに頻繁に連絡を取り合い、この夏休みの間にも一緒に遊びに行ったりした。
私には似ず、リスみたいに小柄で、守ってあげたい感じのする可愛らしい子。私も志緒美みたいな女の子になりたかったと、劣等感とも憧憬ともつかない想いを何度抱いた事か。
あ……。
頭の中に八重歯が覗くチャーミングな志緒美の笑顔が浮かんだ瞬間、私は思い至った。
そっか。
新井君は、やっぱり私に似てるんだ。
私は、私が好きじゃない。
私に似ている新井君が、私ではなく志緒美に惹かれるのは当然の帰結だった。
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