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届けられた希望
私が歌うきっかけになったのはもちろん母だ。
そして歌わなくなったきっかけも母。
だがもうひとつ歌わなくなった理由があった。
元々私の母が芸能人であることは秘密だった。
母が何か嫌なことを言われないように、と配慮してくれていた。
それをぶち壊した、美優。近所に住んでいる綺麗な女の子。
学校でも指折りの人気者でカースト上位は当たり前。
中学生のある日。私の近所に引っ越してきた美優は勝手に私の家に上がり込んできた。
そして私の母と私が家族であるということを知られてしまった。
そこからはもう・・・全てが・・・ゴミのような生活だった。
美優はすぐ噂を広げ私の居場所がなくなっていった。
「ねえ、あんた雛形ひまりの娘なんでしょ?なんか歌ってよ」
怖かった。ただただ怖かった。
「ひまりの代表曲のYour believeとかは?」
「いいじゃん最高www」
こいつらはただ単に楽しんでえいるんだ。
最低
でも、私がお母さんの娘じゃなかったら・・・よかったのかな・・・
いや、でも私は「雛形ゆづ」なんだ。
でも、怖いなぁ・・・
このまま居場所がなくなっていくんだろうか。
そもそもこんな私に居場所なんて必要ないのだろうか。
そんなことをひっそり思いながら母のいる病院へと足を運んでいった。
そうだ、そして、私は・・・
「あんたなんて産まなきゃよかった」
こう言われたんだ。
思い出したらもうどうでも良くなってきた。
いっそのこと、一思いに消えられたらいいのに。
塵のように
誰にも気付かれずに
消えられたらよかったのに
どうせ誰も悲しまない。
私にはみのりの代わりになんて頑張れない。
あ、チャイムなってる。でもサボってもいいかな。
屋上にゴロンと寝っ転がる。
4月のコンクリートはまだ冷たかった。
「ー♪」
え、なんでこの曲が・・・
起き上がるとみのりが歌っていた。
私が驚いているのを横目に堂々と歌っている。
羨ましいんだ。
私だって本当はこうなりたかった。
私のイメージカラーである青いペンライトが輝いている光景が好きだった。
「だった」じゃない。「好きなんだ」
いいなり曲が途切れる。
「えっ!ごめん、ひなっち大丈夫?」
「え?何が」
「何がって泣いてるじゃん」
気づくと泣いている。
「あれ?泣くつもりなんてないのに」
「ねえ、ゆづ」
「ん?」
「ゆづは歌いたくなくて歌えないんじゃないでしょ。本当は歌いたいけど歌えないんじゃない?」
ああ、やっぱりみのりには敵わないな・・・
「私、出るよ。『絶望にのまれて希望の光がないのなら、私が希望を届ける』そんな歌手になるために」
みのりはニコッと微笑んだ。
「みのり、いや白石桃。希望を届けてくれてありがとう」
「どういたしまして」
こういうのを俗に言う友情なのかもしれないな。
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