104人が本棚に入れています
本棚に追加
佐野の誕生日は6月の何でもない日で、誰も覚えてないと笑っていたけど、それは間違いだ。
この同級生は、私が時々、佐野のいるサッカー部が終わるまで自分の部室で、やけにゆっくり着替えている事を知らない。
そうやって、偶然、同じ頃に部活を上がると、こうして一緒に帰るだけの仲だ。
帰り道がちょっとだけ一緒だから。
幼馴染みでもない。
彼氏彼女でもない。
「あ、みやっち、遅れた誕プレに奢ってやろうか?」
公園の駐車場脇の自動販売機を指差しながら、佐野が振り返る。
「わあ。佐野、やっさしいじゃん。いいの?」
「お年玉の経済効果で、1月上旬だけ景気いいの」
現代社会か。
「なんだそれ」
変な用語で笑っているけど、佐野が何か奢ってくれるのは、正直、ちょっと嬉しい。
「みやっち、誕生日が元旦で良かったな。俺、絶対、忘れないし、俺の懐が温かい。んー、どれにする?」
自動販売機を眺めながら、私の誕生日が元旦であることの利点を語る。
子供の頃から、自分の誕生日が元旦と被っている事がずっと嫌だったのに、佐野に絶対忘れないなんて言われて、案外良いじゃないかと思い始める。
「温かい紅茶。ミルクのがいい」
「オッケー」
学校帰りに、寄り道して、ちょっと立ち止まってお喋りする。
それだけの、どうでもいい事だけど、私は、毎回、浮かれた。
最初のコメントを投稿しよう!