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イツキがあんまり泣くから俺まで泣きたくなって、イツキをしっかり胸に抱きしめながらこっそり泣いた。 外では相変わらず雨が激しく降り続けていて、時々何かが風に飛ばされて転がっていく様な音が聞こえる。 ふ、とリビングの照明が消えた。 「……停電?」 「うん……、、、あ、灯いた。」 再び明るくなった部屋でお互いの顔を改めて見合う。 「ひっでぇ顔。コウも泣いたな。」 「バレたか。」 涙で濡れた頬を手で拭ってやる。 「腹減ったな。」 「うん。今何時だ?ぅわ、もうこんな時間か。腹も減るわ。」 「なんか作る?」 「いや、イツキも今日は疲れてるだろ。毎日作ってもらうのもなんか悪りぃし。」 「それは全然いいけど、材料もそんな無いしなー。」 涙を拭っていた俺の手をとり、にぎにぎと弄びながらイツキが言う。 「こういうときは魔法の箱だな。」 「それだ。」 魔法の箱というのは、食欲旺盛すぎて四六時中お腹すいたと騒ぐ俺たちのために昔母親達が設置した箱で、カップラーメン等すぐに食べられるものが常備されている箱のことだ。 減ってくるとどちらかの親が補充していたので、食べても食べても箱の底が見えることはなかった。それが不思議で小学生の頃の俺たちは魔法の箱と呼んでいた。ちなみにこの箱はイツキの家にもある。 「えっコウ特盛2つも食うの?」 「腹減ったんだって。」 「太るぞ。」 「その分動くから問題無し。つーかイツキのはちっちゃくね?足りる?」 「いいじゃん、これはスープが旨いの♡」 「へー。今度俺もそれにしよっかな。あ、俺やっとくからイツキテレビでも見てて。」 「……いいよ。一緒にやる。」 「でも最近やってもらってばっかだったから、たまにはゆっくりしてろよ。つってもお湯入れるだけだけど。」 「コウってほんっと鈍いよなぁ……。」 「へ?」 「近くにいたいんだよ。察せよ、ばか。」 思わぬ発言に隣を見ると、耳まで真っ赤にした横顔があった。 「……。」 「なんか言えよ。恥ずいだろ。」 「……かわいすぎかよ。」 「ははっ。なんだそれ。」 やばいな、これは。 最高に幸せ、の瞬間が毎分毎秒更新されていく。
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