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「めっちゃよかったな。……グスッ」
「イツキ泣きすぎ。……。」
「コウだって泣いてんじゃ〜ん、いや〜殿堂入りだわ。あ、パンフ買おうかな。」
「いいな。俺もなんか買おっかな。」
「これは?キーホルダー。ほら、限定だって。コウの好きなキャラのやつあるよ。」
「マジだ。こっちのステッカーは?」
鑑賞直後にグッズ売り場に行くのはとても危険だ。あれもこれも欲しくなってしまう。
「コウ、ごめん俺トイレ行きたい。」
「行ってこい行ってこい。俺買っとくから。」
「助かる。これ財布渡しとく。」
「おっけ。場所わかるか?」
「ははっ。わかるよ。子供じゃないんだから。いってきまーす。」
「いってらー。」
小走りの背中を見送って列に並ぶ。長蛇の列に見えたが、レジはいくつもあるので意外と直ぐに順番は回ってきそうだ。
えぇとイツキのパンフが……800円か。イツキが細かいの持ってるなら俺の財布からまとめて出して……などと考えながら何気なくイツキの財布を開く。と、
「……っ!!」
思いがけないモノの存在に、全身の血の気が引く。
これって……だよな。
冷たくなった指先で財布を元通りにし、深呼吸をする。
えと、だから、これは、
「お次の方ー。」
考える間も無くカウンターの向こうから映画館のスタッフに声をかけられ、引き攣った顔のまま会計をした。
イツキ、なんでこんなもん……いや、使い道なんて、一つしかない。
「コウ!お待たせー。」
のんきな声にびくりとする。
「お、おかえり。」
「?。ただいま。どした?変な顔して。買えなかった?」
「へっ?いや、どうも?買えたよ。」
「そ?」
「これ……パンフ、と、財布。」
「おっ、さんきゅー。」
「あのさ、イツキ。」
「ん?」
「あー……と、そう、昼飯、どうする?」
「それな!あのさ、今戻ってくる時そっち通ってきたら映画のコラボカフェみたいのやってんだって。」
「そこにするか。」
「そーしよ!」
ご機嫌だ。水を差すようなことはしたくない。
溢れ出しそうな感情にも言葉にも固く固く蓋をする。
1番大切なのは今目の前にいるイツキの笑顔だ。
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