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昼飯を終え、ショッピングモールの中をブラブラと歩く。
イツキの好きなブランドの店や、部活の用具が置いてあるスポーツショップ、それからミウの好きなアニメのポップアップストアがあるとかで、欲しがっていたグッズを買っていくことにした。
「え、反対側じゃん。遠いな〜。」
ぼやきつつも、だからやめようとはならない。2人のかわいいかわいい妹なのだ。
俺達が小学校に入学した年に完成したこのモールは、当時の俺たちには途方もなく広くデカく見えたのだが、それから数年経った今日も相変わらず縦にも横にもデカくて、きっと全ての店を見るのは一生かかっても不可能だろう。
世界がゾンビに支配されてしまったら逃げ込むのはここが良いという世論にも納得。なんならゾンビと棲み分けだってできるかもしれない。
スキップするように少し前を歩くイツキの綺麗なうなじに目を奪われる。
ここに触れた手があったんだろう。触れられた時、イツキはどんな顔をしたんだろう。財布の中にあったアレを誰かと……。
イツキがゾンビになったら俺が喜んで身を差し出すのは考えるまでもないが、そんなことよりきっと俺はイツキを噛んだどこぞのゾンビに激しく嫉妬するんだ。
「なぁ、聞いてる?」
ふいに、イツキが振り向いた。
「聞いてるよ。母さん達の話だろ?」
「そーそー。帰ってくるの、明後日じゃん?何時っていってたっけ。」
「どうだったかな、夕方って言ってた気がする。」
「なーんかあっという間だったよなー。」
「だな。」
「コウとこんな風になれるなんてなー。変な感じ。」
「それは俺も……って、あれ、サクマじゃね?」
「サクマ?」
「やば!こっちくる!」
2人で慌てて通路を曲がり、流行りの服に身を包んだマネキンの陰でひそひそと話す。
「あいつらプール行くって言ってたのになんでいるんだ??」
「混んでて入場制限してたのかもな。夏休みだし。」
「……てかさ。隠れる必要なくね?」
イツキが丸い目をきょとんとさせて言った。
「……それもそうだ。」
顔を見合わせて笑う。
「なんか咄嗟に。ふふっ」
「俺も。あはは。」
「どーする?サクマ達と合流する?」
「うーん。……今日は、コウと2人がいい、とか言ってみたり。」
か、かわいい。
「俺もおんなじこと考えてた。」
そう答えると、イツキは花が咲いたみたいに笑った。
「じゃ、ミッション!サクマ達に見つからずにミウの欲しがってたグッズを手に入れろ!」
「よっしゃ、行こ!」
「ちょい待って、手。」
慌てて隠れた時、思わず繋いだ手。すごく熱い。
「……このまま行くか。」
「へっ?コウ、いーの?」
「だめかな。だめか。」
「……いいと思う。いいよ。このまま行こ!」
「ん。」
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