白うさぎと僕の時計のおはなし

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 だけどすぐに勇者のことはどうでもよくなってしまった。その白いものは服を着た白うさぎだったからなんだ。羊の姿をした睡魔じゃなかったんだよ。  次回作のアイデアにしては、「不思議の国のアリス」そのまますぎるって? だから、本当にあった話なんだってば。  僕は白うさぎを観察することにした。こんなことが起こっているのだから、未来の童話作家としては、創作のアイデアにするためによく見ておくほかはない。  白うさぎは、教室のあちこちを二足歩行で跳ね回って、机の中をのぞいたり、学生の足下をさぐったりしていた。学生たちは講義に集中しているかうとうとしているかのどっちかだったので、気がつく者はいなかった。  教室を探索し終えると、白うさぎは耳をひょこひょこさせながらうろついた。 「見つからない、見つからないなあ」  白うさぎがつぶやく。  僕がちょうど、「不思議の国のアリス」を読んでいて想像したのと、まったく同じ声だった。  だからきみも、自分がアリスを読んでいたときに、白うさぎってこんな声だろう、と思っていたような声を想像してくれたら、だいたい合っていると思うよ。
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