白うさぎと僕の時計のおはなし

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 それから数日後のことだった。バターの香りの何かふわふわしたものに頬をつつかれて目を覚ますと、カーテンのすき間からは明るい陽の光が差し込んでいた。 「あのう、おはようございます。あっ、もうお昼なんですけどね」  白うさぎが、申し訳なさそうな表情で僕のベッドの横に立っていた。  なんだい、と僕が目をこすりながら返事をすると、白うさぎは懐から金色の懐中時計を取り出した。 「返してくれるのかい」 「遅くなってごめんなさい・・・・・・」  白うさぎはそう言ってから、早口で付け加えた。 「あの、忘れてたわけじゃないんです。ただ、ちょっと時計が狂っていたから、貸してくれたお礼に、直して返そうかと思って」  僕の体内時計はちょっと狂っていたらしい。夜更かしすることが多いからかな。道理でいつも昼間に眠くなっていたわけだ。 「それは手間を取らせて悪かったね。ありがとう」  僕は時計を受け取った。白うさぎはほっとした様子だった。もっと怒られると思っていたのかもしれない。 「あの、多分です、多分、直ってると思うんです。とびきりいい油をさしておいたので。ええ、多分。それじゃ!」  言い終えると白うさぎは走り出して、壁に掛かっている鳩時計に向かって大きくジャンプした。そして、いつもは鳩が出てくる扉を開けて、中に入っていった。  どうやってあんな小さな扉に入ったのかと思ったが、現に入ったのだからしょうがない。あいつらの生態はきっとそういうものなんだろう。
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