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prologue
「カナさん、こっち。早く!」
━━どうして、こんなことになっちゃったんだろう。
生ぬるい風が、頬をなでる。
全力疾走なんて、体育の授業があった高校在学中以来だ。
筋力のない両脚は、熱湯に浸かりたてのパスタのように頼りなく。だのに、動悸でバラバラに砕け散りそうな全身を必死に運ぶ様が可笑しくて。
「あー、はっはっは!」
笑い声を上げる私を戸惑い顔の伴走者は振り返る。
「カナさん、笑いすぎ」
━━笑っちゃうでしょ、こんなシチュエーション。
白いドレスを身にまとった美しい二十歳の青年と、三十路を迎えた独り身の私。
なぜか二人で、手に手を取って逃げている。
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