奔逸

7/11
前へ
/11ページ
次へ
 本物のKさんは、偽者のKさんがいた場所からすぐ側の別の場所にいた。  激しい音楽に掻き消されないよう、いつもより声を張って事情を話した。ただ笑っていた。  もう、どちらが偽者か分からなくなった。笑いたいのは私の方だ。何方にせよ、今日はもうどうでも良かった。  Kさんは私を何人かの知り合いに紹介し、何処かへ消えて行った。どのくらい時間が経ったかは分からない。結構な量のアルコールが身体中に行き渡ったせいで、哀しみと怒りが抑えきれなくなった。私は一人で静かにその場を出た。  この空間に全ての記憶を置いて、出来るだけ遠くへ行きたい。とにかく走った。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加