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双子、というものを、生卵以外ではじめて見た。二人並んでいても彼女たちはそっくりで、なんだか僕の目の方がおかしいような気さえしてくる。
「私は桜子ちゃん。ラコちゃんだ」
片方の彼女がそう言ったが、多分、目をつぶってる間に立ち位置を変えられたら区別がつかなくなるだろうというくらい、二人はおんなじ姿かたちをしている。黒くて長い髪に茶色い目。赤いダッフルコートからのぞく黒いプリーツスカートの裾、そこからのびる黒いタイツを履いた足に、茶色いローファー。彼女たちは僕を挟むように並んで、それからそれぞれ僕の腕を掴んで歩き出した。なすがままになって僕も足を動かす。どこに行くんだろう。
桜子さんは僕の左側で、そのまま喋り続けた。
「反対側にいるのは緑子ちゃん。リコちゃんだよ。便宜上私の方がお姉さんていうことになってる。二人揃って県立椿ヶ丘高校の一年生だよ。君は?」
「え、あ、名前は、堀田陸。小学四年生」
「四年生か。うちにも四年生の妹がいるんだ。あと双子の妹。あ、リコちゃんじゃなくてね、もう一組双子がいるってこと。今年五歳なんだ。それに父親がいて、うちの家族は全部」
流れるような紹介を整理するべく、僕は掴まれてる右腕を持ち上げ、指を折って数えた。桜子さん、緑子さん、僕と同い年の妹、五歳の妹が二人、それから、お父さん。最後に小指が持ち上がったので驚いた。六人。そんなに家の中に人がいたら、さぞ賑やかだろう。顔を上げると、桜子さんが優しそうな表情でこちらを見ていたので、ああ僕の番か、と察する。
「うちはお母さんしかいない。お母さんと、僕」
「そうなんだ」
そこでぐう、とお腹が鳴った。僕のお腹だ。誤魔化したくて急いで言葉を繋げる。
「お母さん、昼間は大体うちにいるんだ。夜仕事してるから」
「そう」
「でも最近は昼もあんまりいなくて。今日は、朝はいたんだけど、さっきはいなくて。だから家に入れなくなっちゃって」
「家の鍵、忘れたのかい?」
「……そう」
今日が終業式だったのが余計にタイミングが悪かった。いつもだったら昼ごはんは給食で食べられたのに。
うん、と桜子さんはひとつ頷いた。
「お母さんは、待ってたら帰ってくる?」
「多分むり。カレシできたって言ってたし」
「……よくあるのかい? こういうこと」
「鍵忘れたのは今日が初めてだよ。お母さんが帰って来ないのは、まあ、割と」
口に出してから、お母さんがあまり家にいないことを正直に話したのは初めてかもしれないと気がついた。そもそもこんなことを話す相手がいないのと、話したところでどうにもならないか、最悪お母さんを悪く言われるからだ。それは昔おばあちゃんちにいたとき、経験したから、わかる。
それなのに、桜子さんはふーんと鼻を鳴らして、それっきりだった。反対側から緑子さんが、うちにサンドイッチがあるよと言ったので、僕のお腹がぐう、と返事をした。
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