彼女が「おめでとう」を言う理由

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 ――そしてあっという間に二年の月日が流れた。  前任者からクラスを引き継いで四年。私は三十二歳になり、AA19EE達はもうすぐ揃って二十歳になる。彼らは同一ロット故に、誕生日も同じなのだ。  生徒達の中には既に精神に変調をきたす者が出ており、としていち早く薬物で自由意志を剥奪された生徒も数人いる。  そんな中にあっても、AA19EEは変わりなかった。それどころか、ぎりぎり滑り込みで卒業したクラスメイトに、やはり笑顔で「おめでとう」の言葉を送りさえしていた。 「――何故、君はそんなに笑っていられるんだ? 何故……『おめでとう』と言えるんだ?」  どうしても彼女の内心が気になってしまった私は、気付けば彼女を教官室に呼び出し、直接問いただしてしまっていた。  彼女は最初、何を聞かれているのか分からなかったようだが……やがて私の意図を理解すると、少しだけ苦笑し、その茶色の瞳を揺らしながら口を開いた。
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