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「パイロットとして活躍すれば、教官達のように人間らしい生活を送れるんですよね? 卒業すれば、その生活へ一歩近付いたことになる……。仲間――いいえ、兄弟姉妹の未来が少しだけ明るくなったんです、嬉しいに決まってるじゃないですか」
そう言って、例のはにかむような笑顔を浮かべた彼女を前に、私はそれ以上何も聞くことができなかった。
――他人の幸福を我が事のように喜ぶ。今の人類の殆どが忘れてしまっている、人類にとって大切だったはずの感情。それを、使い捨てにされようとしている少女が備えていた。その事実は私にとって衝撃だった。
もちろん、私達元パイロットの中には、そういった感情を芽生えさせた者も少なくない。だがそれは、マーズシティでの安全で安心な暮らしがあってこその話だ。
AA19EEのような、明日をも知れぬ身の人間に芽生える感情とは、とても思えなかった。
そして自然と、私はこう考えるようになっていた。「彼女をこのまま失いたくない」と。誰に教えられたわけでもなく、人間にとって尊かったはずの感情を備えた彼女を救いたいと。
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