彼女が「おめでとう」を言う理由

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 彼女の成績を改ざんし、卒業させることも考えたが……彼女の能力では正パイロットの訓練にさえ耐えられないだろう。すぐにボロが出る。  ――どうすれば彼女を救えるのか? その方法を見いだせぬまま、無情にも時は流れた。  そして、彼女達の二十歳の誕生日がすぐそこに迫った、ある日のこと。  戦友の一人から、不意にメッセージが届いた。 『無事に子供が生まれました。是非、一度会いに来てください』  メッセージに添付された写真の中では、戦友がパートナーとなった女性と、彼女との間に生まれた一粒種と共に笑顔を浮かべていた。  殆どの子供が工場生産される中、自然妊娠や出産は非常に珍しい。生まれた子供は生態演算ユニットとしての能力こそ持たないが、人類復興のシンボルとして丁重に扱われるのだ。  パートナーの女性は、私や戦友よりも随分と若い。確か、彼がアカデミーに講師として招かれた時に一目惚れした若い女生徒を、多少無理を言ってパートナーにしたのだったか。  生殖行為のパートナーを選ぶ権利は、退役パイロットに与えられた特権の一つだ。だから無理もできたのだろう。
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