しゃぼん玉のステーキ

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 僕は屋根の上に降りて、Rの隣に座った。クジラの鳴き声に似た午前二時のチャイムが鳴り響く。欠伸を一つする。涙が頬を伝った。 「ジャンケンホイ」Rが言った。僕はチョキを出した。Rもチョキだった。 「あいこだな」 「あいこだね」 「あいこでしょする?」 「やめとく。あいこでしょが永遠に続くのはしんどいから」 「チョキしかだせないもんね」 「平和だからね」 「平和だもんね」  Rが寝転がった。僕も寝転がった。気が付けば海は屋根ギリギリのところまで迫っていた。 「もう飛び降りられないね」Rが笑った。 「そうだな」 「思ったよりも早いね」  水が足元を濡らし始める。僕とRの体が海に溶けだす。痛みはなかった。 「この海の水がしゃぼん液だったら、どれくらい大きなしゃぼん玉が出来るのかな?」 「さあな。太陽まで飛んでいけるくらいじゃないのか?」 「だったら、ステーキになればいいのにね。こんがり焼けて、宇宙をずっと彷徨っていればいいのに」 「僕たちがはちみつの役割を果たせればいいんだけどな」 「甘い夢を見ていた私たちなら大丈夫だよ」  Rが指輪を眺めながら言った。
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