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レベチ
近年、社会情勢のひっ迫や情報社会の精神的ダメージ、残虐的な犯罪多発により、人々の心は疑心暗鬼で満ちて荒んでいた。
この状況を変えるため、奇特な大富豪が秘密裏にある会社を立ち上げた。
それが『感謝集会』である。
人々が困っている時、さっと優しく手助けして、人々の心に優しさを取り戻すというものだ。
感謝集会の存在が明るみに出ると、人々は警戒して疑心暗鬼に拍車をかけてしまうため、この会社は非公開である。
感謝集会の下で働く『感謝ワーカー』の人数は分からないが、全国配置されているので相当数居ると予想される。
感謝ワーカーには、感謝の言葉を感知してカウントする腕時計型の最新機器が配付されており、収集する感謝の数に応じて、賃金が配当される。
どんなキャッシュフローで成り立つのか全く分からないが、感謝ワーカーの中には稼いだ資金で感謝集会の子会社を経営しているものも居るらしい。
「よ!おめでと!」
「わっ!」
金歯の男が、ひょろりと公園の自販機の裏から顔を出した。
「なんだ、お前か。なんだ、おめでとうって。」
「なんだよつれないな。最近、急激に件数増やして、ありえないくらい稼いでんのお前だろ?だからお祝いしたんじゃねーか。……お?なんだ?なんかしてたのか?」
金歯の男は、遠慮なく俺の横に腰掛ける。金歯の男の足元には、汚れた軍手、スコップを置いていたので、コツンと男の靴に当たった。
「……なんの事だかわからんな。」
俺は持っていたビール缶350mlのビール缶をプシュっ開けて、グッと勢いよく飲んだ。
「昼間っからビールか。羽振りがいいな」
「農作業手伝ったら、いいって言ったのに、無理やり持たされたんだ。これもその道具」
「いやいや、それよりも、トップ成績者の話しよ。なぁ、お前だろ?俺には分かるぜ?初めて教えた頃とはオーラが違ぇ。」
ニカニカと気味の悪い笑顔。元々こういう顔だから、仕方が無いのだが。
「さあね。」
「んだよ、白々しい。いいぜ、俺は知ってるからよ。」
気味の悪い笑顔を浮かべながら、金歯の男はちょろちょろと公園を出ていった。
「面倒なやつだな」
俺は、ネズミのようにあちこち調べ周り、情報を掴もうとする金歯の男を少し疎ましく思った。
金歯の男は、きっと、別の仕事が向いている。
金歯の男の言う通り、俺は入社してから半年で桁違いの成績トップをたたきだしている。
入社の頃はとにかく必死になって、困っている人間を探していたが、今となっては自然と対象を目が追っている。
慣れれば簡単な事だ。
「俺は、今の仕事が向いてるのかな……」
昼間の公園。そろそろ幼稚園児がなだれ込んでくる。
俺はそっと立ち上がり、軍手をはめて、スコップを持つ。
そして、俺は公園の遊具の周りに人目では分からない小さな穴を掘りながら、感謝が自然とやって来くるのを待った。
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