おにぎり専門店・山田

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「なあ父さん、ここコンビニにしない?」  「うちはじいさんの代から続いているおにぎり専門店だ。俺の目が黒いうちは、山田の看板は下ろさないぞ」 「じゃあ、せめてメニュー増やそうよ」 「うちのおにぎりは、梅、天むす、おかか。 じいさんの代からそう決まっている」  土曜日のランチタイムなんて大抵どこの飲食店も書き入れ時だっていうのに、相変わらずポツポツとしか客の来ない店内で父さんに話しかけたけど、これまた答えはお決まりのものだ。  じいさんの代から、ね。ったく、頑固なんだから。 「じいさんや父さんたちの時代はそれで良かったかもしれないけど、今は時代が違うんだよ。実際客来てないじゃん」  地下鉄に乗れば五分で名古屋駅という好立地にも関わらず、昔ながらのおにぎり専門店でメニューも少ないうちに来てくれるのは、常連のお客さんくらいだ。味は悪くないと思うんだけど、おにぎりならコンビニでもっと安く買えちゃうし、おにぎりだけっていうのも味気ないよね。 「そこまで言うのなら、お前のやり方でやってみろ。もうすぐ大学の夏休みだろう」 「えっ、いいの?」  またどうせ伝統がどうのこうのって返ってくるんだろうと思ってたのに、店を任せると言われて耳を疑ってしまった。今までどれだけ店の経営に口出そうとしても、「そんなことを考えてる暇があるなら、勉強でもしてろ」って相手にしてくれなかったのに。  あ〜あ、ここのところ新規のお客さんがほとんどこないのがだいぶ堪えてんな。コンビニにしようって言ったのは俺だけど、父さんが素直だと調子狂うんだけど。
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