頑張る日菜の庶民派デート

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頑張る日菜の庶民派デート

 その後、真由香と共にマンションの前に下ろされて礼央と別れると、二人で信也の部屋を目指してエレベーターに乗り込んだ。 「真由香さん、素敵なプレゼントをありがとうございました。楽しかったです」 「いいのよ、あたしも楽しかったわ。日菜、本当に可愛い!」  真由香はぎゅうぎゅうと日菜を抱きしめる。  真由香にプレゼントされた服の紙袋と、礼央のぬいぐるみの入った大きなショッピングバッグを抱えて部屋に入ると、信也は不貞腐れたようにソファに横になってテレビを見ていた。  昼食に食べたのだろうか、テーブルの上のカップ麺の空容器に哀愁が漂っている。日菜の心に申し訳なさが募った。 「あんた拗ねてんの? いい歳した男が情けないわね」  真由香がリモコンでテレビの電源を切ったので、信也は渋々起き上がる。と、日菜の様子が違うことに気づいたのか、食い入るようにその全身を見つめる。 「日菜……どうしたのその髪。服も……それになんか、顔も雰囲気が違う」 「どう? 可愛いでしょ。あたしの最高傑作よ。ま、ヘアメイクはプロに頼んだから、あたしは服選んだだけだけどね」  真由香は日菜の背中を押して信也の隣に座らせた。 「この可愛い日菜が、あたしからの誕生日プレゼントよ、信也。腐れ縁なんだから、信也の欲しいものくらいお見通し。じゃあ、素敵な誕生日を楽しんでね」  優しく微笑むと、真由香は出て行ってしまった。  一瞬の沈黙の後、信也が口を開く。 「どこに行ってたの?」 「あ、買い物に……真由香さんと八乙女さんが、誕生日プレゼント買ってくれたの」 「……八乙女先生も?」  信也の顔に、再び不機嫌さが滲む。 「あ、えっと、そこのぬいぐるみなんだけど」  信也はショッピングバッグの中を覗いた。 「可愛いぬいぐるみだね。良かったね」  少しそっけない言い方で言うと、信也は再びソファに座り込み、テレビをつける。 「あの……信也くん? 拗ねてる?」 「拗ねてないよ、別に」  真顔でテレビばかり見ている信也の顔を、無理矢理覗き込む。 「ねえ、機嫌直して信也くん。ごめんね、誕生日にカップ麺なんか食べさせて……ちゃんとお祝いしたいの。今から一緒に出かけたいんだけど、ダメかな?」  信也はぐっと言葉に詰まると、ため息をついた。頬が赤らんでいるように見えるのは気のせいだろうか。 「……わかった。そんな可愛い顔で上目遣いするなんて、狡いよね」 「え?」 「なんでもないよ。行こうか」  信也を連れ出すことに成功し、日菜は張り切っていた。今こそ例の記事『お金持ちのカレには庶民派デートを!』を生かす時だ。
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