ずっと一緒に、いつまでも。

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ずっと一緒に、いつまでも。

 翌朝早朝、先に目覚めた日菜は、飽きもせず信也の寝顔を見つめていた。 (可愛い寝顔……幸せ)  窓の外の朝焼けに包まれて、晴れやかな気分だ。やがて信也の瞼が動き、目を開く。目が合った瞬間、日菜は信也にキスを落とした。 「おはよう、信也くん」 「日菜……早起きだね」 「大好きだよ、信也くん。今日はよろしくね」 「ん……?」  寝ぼけた状態の信也は、目を擦りながらぼんやりとしている。 「本当の意味で夫婦になれること、すごく嬉しいの。ありがとう。信也くんに出会えてよかった」  いつか、別れを決意して信也の家を出る前に、眠る信也に告げたその言葉。今では未来に繋がる、幸せな言葉になった。 「うん……僕もだよ。会えて良かった」  瞬きを繰り返し、信也が身を起こす。ようやく目が覚めたようだ。 「いよいよだね。気分はどう?」 「うん、最高!」 「やっと僕の可愛い花嫁に会えるんだね。すごく楽しみだよ」  無事に迎えた大切な日。今日、祝福の鐘のもと、愛を誓い合う。 「日菜さん、そろそろ」  そう声をかけられ、純白のウエディングドレスに身を包んだ日菜は、緊張気味に立ち上がった。  武志に手を引かれ、エターナルランド中心部にそびえ立つお城に足を踏み入れる。たくさんの人に見守られながら、待っている信也の元にゆっくりと近づく。  やがて二人は向き合った。一度目は信也がレストランで、二度目は日菜が公園で。それぞれ一人で呟いていた誓いの言葉を、今は二人で聞いて、愛を誓い合い、そして指輪を交換し合う。  誓いのキスに涙が滲んだ。祝福のフラワーシャワーの中、二人は笑顔に包まれて退場した。 「結婚って何なのってずっと思ってたんだけどさ。あの二人を見てて、あの二人が答えなんじゃないかなと思ったの」  新郎新婦の退場後、チャペルの席に座ったままぽつりと零した真由香に、隣に座る凛太郎がふと顔を向けた。  凛太郎の体調は日に日に悪くなる一方だ。今回、ヘルパーを伴ってはいるが、出席できたのは奇跡に近いかもしれない。 「どうした、藪から棒に」  凛太郎が怪訝な顔で娘に問うた。 「結婚って、家族になろうとすることなのかなってさ。親子や兄弟と違って、血の繋がりもなければ無性の愛もない。ただの他人だった二人が一緒に生きて、家族を作るんだよね」  凛太郎が黙って聞いているのをいいことに、真由香は語り続ける。 「すれ違いもするし、疑ったり、ケンカしたり、そうやって他人から家族に変わっていく。だから結婚はスタートだってみんな言うんだね」 「おまえも結婚したくなったか。できれば私があの世に行く前に済ませてくれたら助かるんだがな」 「父さんには悪いけど、あたしは親孝行で結婚するとかは無いな。結婚しても上手く行くかなんてわからないし。生涯最大の賭けじゃない?」  凛太郎はふんと鼻で笑った。 「怖いのか?」 「そうね。結婚って立派な文字に踊らされて、色々難しいこと考えるんだけど……結局その相手と家族になれるかどうか、それだけ考えればいい話なのかもね。本当の家族になれたなら、きっと何でも乗り越えていけるからさ」  真由香は凛太郎の顔を覗き込んだ。これまで衝突の多い二人だったのだが、父も娘も歳を重ね、丸くなってきたのかもしれない。 「父さんたちはどうなの。死んだ母さんのこと、まだ愛してる?」 「そうだな。一刻たりとも忘れたことはない。……家族になれたかどうかは、おまえが一番わかっているだろう」 「そうね。父さんと母さんには、あたしが百点満点をつけてあげるよ」  真由香は立ち上がると、ヘルパーと共に凛太郎を車椅子に誘導した。 「さあ、今からグループの後継者と、あたしの大好きな妹の披露宴よ。父さんは大事な役目があるんだから、途中で疲れないように頑張ってね」
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