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「毎度っす、オーバーイーツっす。リアルモンブランの受取に来ましたー」
「おお、オーバーさん! 待ってたよ!」
リアルモンブランは栗のクリームを使ったケーキだが、その名の由来は西ヨーロッパ最高峰の山だ。
このリアルモンブランは、その山を再現したデザインと、山を思わせる巨体をもって“リアル”の名を冠している、らしい。
「どうだい! これがうちの自慢のリアルモンブランさ! いやー、店頭合わせても注文が入ったの初めてだから、気合入っちゃったよ!」
店主が自慢げに手をかざした先には、確かに山をも思わせる巨大なケーキが聳え立っていた。
どうやら配達員に見せるために箱詰めを遅らせていたようだ。
畳2畳ほどの面積に、こんもりと立つ峻厳なケーキ。
「おわー、すげーっすね」
俺は死んだ目で答えた。
店から出せるのか、これ。
結論として、そのケーキを店の外に出すことは出来た。
店主を含む店員3名と俺が箱の4隅を持って、正面のドアをギリギリ通ることができた。
元からドアを通れるサイズを計算して作られたのだろうが。
「それじゃあ、宜しく頼むよ!」
「うっす」
会社から貸与された折り畳み式荷台を広げ、その上に積まれたケーキ。車輪と変わらないサイズの補助輪がどうにかそれを支える。
が、このままでは後部が重すぎて走行中に引っ繰り返るだろう。
前カゴに後輪に取り付けていた錘を全て前輪に移し、それでもまだバランスが悪いので、俺は可能な限り前のめりになって、ハンドル側に体重をかけた。
「それでは、失礼っす」
バカみたいにペダルが重い。
が、俺はなるべくそれを声や顔に出さず、平然と漕ぎ出した。
「はぁー、流石オーバーさん、力持ちだなぁ」
店主のバカみたいな声を背に、俺は走り出した。
ケーキを客に届けた時には、それは箱の中でぐちゃぐちゃに潰れていた。
潰れる前提の配達だから特にクレーム等もなかったのだが。
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