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小さな窓
「ご苦労、君はよく頑張ってくれた」
スーツを着た男が人当たりの良さそうな
作り笑顔を浮かべて、車イスに座った
メイド服姿の女性に拍手をした。
「それでは、お世話になりました。 皆様」
女性は玄関に並んでいる家族に
ペコリと一礼した。
彼女は人ではない。
人間の手や足のように仕える事を
目的に造られた、女性型アンドロイドだ。
製品番号はHR-1156。
彼女はかなりの旧式型で、だいぶ前から
内部装置の一部挙動がおかしく
なっていたり、錆で指や顔の内部パーツ
も思うように動かなくなってきている。
身に着けている白いフリルの付いた
カチューシャは茶色のシミが目立つ
ようになり、長いエプロンドレスの
裾もかなりボロボロだ。
以前は艶のあったショートカットの
人工毛髪もボサボサと跳ねている。
スーツの男は、彼女のようなアンドロイドを
造り同時に提供している会社の
セールスマンで、今日は1年間の契約期間が
終わった彼女を回収に来ていたのだ。
「さぁ、帰るぞ1156。 それでは、
またのご利用をお待ちしております」
そう購入者家族に微笑んで再び一礼すると、
男を彼女を大きなトラックの荷台に乗せた。
普通はこの後記憶装置をリセットして
再び商品として売り出すのだが、
壊れかけの彼女はこの仕事を最後に
廃棄処分となってしまう。
彼女にとって、これが最後の仕事だった。
彼女は荷台の壁についていた小さな窓から、
今まで暮らしていた家を覗いてみた。
玄関では購入者家族がトラックを
寂しそうに見守っていた。
彼女は記憶ファイルを開くと、
この1年間の記録を振り返った。
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