死体は語る

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「警察が来るまでの時間、母のそばで私と父は呆然と立ちすくんでいた。そこで君、何が起こったと思う……母がね、起き上がったんだ。その動きは大分ぎこちなかったけど。 関節をカクカクさせたかんじで両手を後ろ手に床について上半身を起こしたんだよ。私は母が生き返ったと思って父を見上げた。でも父は全く表情を変えていない。それでこれは私にしか見えていないのだと思った。 母はまず唇から垂れた吐瀉物を手で拭うと、 凝視する私に気づいたのかっと私の方に顔を向けた。そして口を開いたんだ」  これは、心霊特集行き決定だ。 「お母さんは何と」 「母は悲しげな声でこう言った。『解剖の必要なんてないわよ、私ね急に頭の骨が潰れそうなくらいの頭痛がして、きっと脳に何か起こったんだと思ったわ。そうしたら次は猛烈な吐き気がして、ここで吐いてしまったの、はずかしい……くも膜下出血とか脳梗塞とかそういうものだと思うの。だから解剖なんかしなくていいのよ。ね、(ごう)ちゃんからそう言って。お母さん胸やお腹を切り裂かれるのはいや。剛ちゃんから警察の人にそう言ってちょうだい……』そう言いながら死んでいるはずの母が私にジリジリとにじり寄って来たのさ」
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