死体は語る

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 俺はさすがに黙ってしまった。  死者が復活した? いくら悪目立ちしようたって、この先生の話は度が過ぎる。 「君、想像できるかい。死人がすがるようにして懇願したんだよ」 「……恐ろしいです」  と、俺は馬鹿正直に答えた。 「ああ実の母親でも正直恐ろしかったよ。しかしね、あの時のことを恐ろしいなんて言ったら今の私は気が狂ってるよ。今だって毎日のように死人の話を聞いているのだから。しかも今は母みたいに身内の話じゃないよ。赤の他人の死体だからね」  どこまでこの話を素直に聞けばいいのだろう。しかし蟹江の話はここから素直に聞かざる得なくなる。 「なぜ君の友人の七尾君が私のことを君に紹介したと思う」 「それは、友人としての思いやりだと思いました。法医学の世界なんて僕らが容易に近づける世界じゃありませんから。正直なところここ最近の僕は雑誌記者としてあまりパッとしていませんでしたから」 「心優しい七尾君らしいな。実はね、彼は知っているんだよ、私が死者の声を聞けることを。七尾君に一度だけ試してみたんだ。私以外の人間にこの体験をさせてみたくて」 「え?」 「彼の学生実習の時さ。私は何人かいた学生の中で七尾君に期待していたんだ。 君も知っての通り監察医というのは圧倒的に少ないだろう。最初君が言ったように亡くなった人相手の仕事だからね」 「でもどうして七尾君に先生と同じ体験が出来たのですか」 「それは私が強く見せようとしたからだ。分かりやすく言えばを送ったということかな」    念……俺の気持ちは七尾の名前が出て初めて、蟹江の話を信じる方向に傾いた。七尾は俺の唯一の信頼出来る友だ。七尾は俺が今回の取材の中であわよくば蟹江のこの能力にたどりつけば幸いと思ったのかもしれない。
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