死体は語る

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「だから私がこの仕事に就いた理由はだね、むやみにご遺体を切り刻まないためだよ。だから私は死ぬ前の様子を彼らに聞くんだ。問診だ。確かめるためには結局切らなきゃいけないのだけど、最小限で済むからね。死んでからも人は最大限に丁重に扱われなきゃいけない」 「分かりました。蟹江先生がこのお仕事に就かれた理由がよーく分かりました」  この時点で俺はすっかり蟹江の話を信じていた。 「七尾君も監察医になってくれれば良かったけどね、残念だ」  無論、監察医も立派な仕事だが、友人には生きてる人を相手にしてほしいと俺は思った。 「思わず長話になってしまったな。そろそろ彼女が来てる時間だ。君も立ち会うかね問診に。もしかしたら君にも七尾君みたいに死者の声を聞かせることが出来るかもしれない。もちろんオフレコだ」  俺は迷わず死者の問診というものに立ち会わせてもらうことにした。 若い彼女か、デートではなかったんだ。  ■  しかし俺は遺体を見てすぐに後悔した。  遺体の主はまだ幼さの残る十五歳の少女だったからだ。  しかも何と俺にもその遺体が動くのが見え、声が聞こえたのだ。
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