死体は語る

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 ■  蟹江に付いて解剖室の中に入るとアルコールの匂いが強く鼻を突き、冷えた空気に一瞬で鳥肌が立った。センサーが感知したのか照明が点き、中央にステンレスの解剖台が現れた。そして医療用ライトの下に全裸の少女が慄然と白く浮かび上がったのだ。その白は自分が今まで見た白の中で一番美しかったといえば不謹慎だろうか。    俺に手招きしながら遺体に近づく蟹江の後ろから俺も少女のそばに寄る。 少女の肌のきめ細やかさが目に痛い。と、そこで突然、少女に見入っていた俺の手を蟹江がすごい力で握った。その瞬間、蟹江の手から俺の手に電流のような衝撃が走った!  その電流は手から腕へ、腕から肩、首筋、脳へ伝わるような感覚で俺は思わずその衝撃に目をつぶった。  そしてすぐに俺は今まで感じたことのない異様な気配に目を開けた。    その時俺が感じ取ったのは少女の顔がこちらを向いた気配だったのだ。少女の目は開いていた。 背筋に戦慄が走り蟹江に手を握られたまま俺が一歩退くと、少女は背骨が軋むような音を立てて起き上がった。そしてもう一度こちらにゆっくりと顔を向けた。  再び蟹江が俺の手を強く握る。    俺は呆然と立ち尽くし金縛りにあったように動けなかった。しかしそんな俺の様子など気にも止めずに、蟹江は少女に語り始めた。 「私は蟹江という医師だ。 気の毒だけど君は亡くなった。私は法律に則って今から君を解剖しなければならない。そこで私は君の体にメスを入れるのを最小限にしたいと思う。そのために教えてくれないか。君が亡くなる前の様子を」  俺の唾を飲み込む音が静かな部屋に情けなく響いた。少女がジロリと俺に目を向ける。俺が縮み上がって目を反らすと、少女が話し始めた。
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