死体は語る

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「言っても君は信じないよ」 「先生、それはお聞きしないと」 「ハハそれはそうだ。まあ信じるも信じないも君の勝手だ。ではストレートに言うよ。それは幼い頃に死者の声を聞いた──ということだ」 「え?! 死者の声……ですか」  待て待て、死者の声とは。  俺は別に"心霊特集"の取材で来たわけじゃないのだが、話の先が全く読めない。一発目の悪目立ちにしても、この方向に行くのはどうだろう。温情判決で企画を通してくれたであろう編集長の顔が頭の中をチラつく。 「そうだ。しかし恨めしや〜なんて、そんじょそこらの幽霊なんかと一緒にしないでくれたまえよ」 「はあ……ちょっと分かりかねますが。もう少し詳しく教えていただけますか」  いやいや、この話を掘り下げてどうする。まさかからかわれているのか──とも思わないでもないが、詳しく教えて下さいと言った手前、このハードルは越えるしかなさそうだ。 「先生、死者の声が聞こえたなんて、いやー、最初からすごく興味深い話をありがとうございます。初対面の僕にそんな話をして下さるなんて」  話半分、いや虚言癖があるのか……七尾君、聞いてないぞ。 「こんなこと誰彼構わず話していたら、あの蟹江って奴は頭がおかしいって言われるのがオチだからね。 死んだ父親には何度もこの話をしたが、信じないどころかいつだって怒り狂って"二度と言うんじゃない!"の一点張りだったよ。しかしね、たまには秘めたる思いを話してみたいのさ、君みたいに聞いてくれる人に。でも君、私の話を原稿におこす時は大幅に濁らせた方がいいよ。君まで私に会って頭がおかしくなったなんて思われたらいけないから──ハハハ」  蟹江が笑った。
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