死体は語る

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 俺は蟹江の笑いに免じて、ここは彼の話を真面目に聞くことにした。話次第では冗談抜きに心霊特集に使うという手もある。俺は姿勢を正した。 「あのう、死者の声を聞いたというのは具体的にどこで、先生が何歳の頃のお話ですか」 「そうだね、あれは十歳の時だ。春だったね。私が一番美しいと思う季節に、悲しいかな一番恐ろしいことが起こったのだよ」 「一番恐ろしいこと……」 「そう、子供の私にとって一番恐ろしいこと。それは、母親の死だ」 「それは何とも。 先生が十歳の時でしたら、お母様もまだお若かったでしょう」  「ああ、まだ三十三歳だった」 「お若い。お気の毒に」 「でね、私は母が二度死んだような思いをしたのさ」 「それはどういう意味ですか」 「母は死んだ後に切り裂かれたんだよ腹を。幼かった私は、それをニ度目の死だと思ったのだよ」 「司法解剖されたということですか」 「そういうことだ」 「もう少し詳しく話していただけますか。お差し支えなければですが」   俺の体は自然と前のめりになった。 「それはお母様の死が事件性があると警察に疑われたということですか」  俺はほんのさっき初めて会ったばかりの相手に、遠慮なくドカドカ踏み込んだ質問をした。まあこれは何時ものこと、これが仕事なもので致し方あるまい。
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