死体は語る

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「じゃあ、私の生い立ちからだ」 「ありがとうございます。お願いします」 「私は一人っ子で父と母の三人家族だった。父は伝統工芸の金工品作りの職人でね、これが職人気質の気難しい人だったんだ。私自身もなんだか人に煙たがれている気がするのだけど、多分父に似たんだな」 「いえいえ気難しいだなんて」 「──まあいいさ。とにかく母は父のことをいつだって腫れ物に触るみたいに接していて、それは子供ながらにも分かったよ。しかし朝から晩まで気を使わせているくせに、父は母のやることなすこと気に食わないんだ。ちょっとしたことで怒鳴ったり物を投げたりして。アレは何かしらのハラスメントかDVだね。母も私も父の前では全く安らげなかった」 「そうなんですか。ご苦労されましたね」 「母は皮肉にも父に惹かれた父の才能と美学とに苦しめられたという訳だ。母はそんな父との生活で心労が溜まっていたのだろうね」 「神経質な職人の妻という訳ですね」  俺は早く彼の母親が、如何にして解剖される事態になったかを聞きたかった。でもここは辛抱だ。急いては事を仕損じる。
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