半宵列車

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私は1時間前に乗ったのだ。 時速何キロで進んでいるのだろうか。 光るビル群。 水面に映る街の光。 私は静かに読んでいる。 言葉巧み描かれているのに何も語られない登場人物の心情。 全ては私の想像次第。 横にあるのは人が見れば幻想的な景色に違いないのかもしれない。 けれど私は生憎興味が無い。 これから祖国に行く。 旧友は元気にしているのだろうか。 私の知らない間にビル群の光は民家の光に代わっていた。 水面は良い。 私の心には、何も無い。 旧友が死んでから何も感じられなくなってしまった気がして。 きっと向こうで元気にしているだろう。 彼はいい人だと私は思う。 足音を立てくる。 そして。 私の目の前に座る。 お元気ですかい。 とこちらに挨拶をする。 ええ。 同じくらいの年齢に見える。 どこか既視感がある。 そんなことはどうでもよい。 何故私の前に。 君を見た時話さなくてはと思って。 私には理解が出来ぬ。 それでいいですよ。 それより夜景が綺麗ですね。 海の近くを通る電車なんで私はそうそう乗りませんから。 読書がお好きなのですね。 私は演劇が好きでね。 よく読むんですよ。 本当は旧友と世界で色々なものを見たかったんですけどね。 私は過ちを犯してしまったのでそれは叶わないんです。 殺人をしたのか。 ざっくりといえばそういうところでしょうか。 貴方はそんなことしないように見えます。 どうか私と同じ道を歩まないでくださいね。 やはり空は綺麗です。 それだけ言い残す。 私は見る。 それは奇麗で薄明かりのかわたれ時だった。
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