#01. ため息ひとつで恋をする。

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#01. ため息ひとつで恋をする。

「おはようございまーす」  時刻は十一時過ぎ。星野(ほしの)花緒里(かおり)が出社するとたちまち辺りからきりりとした声があがる。おはようございます。おはようございます星野さん。花緒里は、自身の勤める会社のこの雰囲気を気に入っている。皆が皆引き締まった表情をしており、各自、パソコンに向かったり、打ち合わせをするなど、業務に集中している。  花緒里はにこやかに笑うと、まっすぐに、奥の課長席へと向かった。課長である荒西(あらにし)に声をかけるためである。荒西に関しては、今年の人事で課長職に異動となった上司であり、どことなくミステリアスなところがある。若見えするが結構年はいっているはず――と噂されている。パソコンを見つめ、タイピングする顔つきは真剣そのものである。  眼鏡越しの瞳が揺れた。「……うん。どうした?」  きゅん、とするのを、花緒里は抑えられない。なんだか、……このひとにリスポンスをされるたびに、その穏やかな声音に魅了されてしまう。……いけない。あたしは、ただの、会社の部下なのに……と迫りくる衝動を彼女は抑制しようとする。
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