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「あ、……はい」拍子抜けした。てっきりこのあと、押し倒される展開も予想していたのに。彼女は腰を浮かせ、「じゃあ、遠慮なく。お先に、……頂いてきます」
* * *
ルームウェアを借りた。彼の、ぶっかぶかのスウェット。グレー、というのがいかにも部屋着っぽくて……女らしさのかけらもないところがかえっていい。なんだかいい。
「あのー。……ドライヤーお借りしても」
「うおっ」と風呂場を出てすぐのキッチンを見やれば、なんと、荒西が、デニムのエプロン姿でホールケーキをカットしているところだった。……って、なんで?
「あっちゃー見つかってしまったか」
「でも、……どうして……」
花緒里は、荒西に近寄った。――誕生日のことは、誰にも広言はしていない。となると、いったいどうして。
「矛盾点が気になったんだよ」と花緒里に向き直る荒西。ワイシャツとパンツにデニムのエプロンを重ねている辺りがなんともエモい。「きみは、さっき、メッセで『三十』歳であることを伝えた。が、『彼氏が二十九年間いない』とも言った。何故、『三十年間』と言わなかったのか。
可能性は、ひとつだよね。
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