#01. ため息ひとつで恋をする。

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「課長あの。ケーマートさまから手土産を頂きまして」と花緒里は手に持っていた紙袋を肩の高さまであげる。「皆さんでどうぞ、とのことですので……三時のおやつにしましょうか。後でお配りしますね」 「ああ……」紙袋のデザインを見てなにか思ったようである。荒西は、「そっか。今日って……24日だっけ」 「あはい」と居住まいを正す花緒里。「さっき駅前の不二家見かけましたが、大行列でしたよ。この時間なのに」  その表現だけで荒西は理解したようである。ふっ、と自嘲的に笑い、「だよな。一年間で一番ケーキが売れるシーズンだもんな……」  そして、切なげに瞳を揺らすと、ディスプレイから視線を譲り、  ふぅー……っ、と、  ため息を吐いた。  その姿を見た瞬間、花緒里の脳内に稲妻のようななにかが走った。荒西は、結婚指輪をしていない……独身……彼女ナシ……。  クリスマスイブに恋人と予定があるいい男が、そんな、憂い気な眼差しでため息を吐いたりするはずがない。すぎゅん、と胸を貫かれたようになり、一瞬、花緒里のなかで時が止まった。
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