#05. ため息ひとつで恋をした。【最終話】

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 誰も愛せないのかと孤独を抱いた自分も、いない。人間は本来は孤独であり、母の力を借りて生まれて最後はひとりで死んでいく。けども……このひとと一緒ならそれが怖くない、と思えたのだ。 「綺麗だね」 「うん」  ふたりは、建物と建物を繋ぐ巨大な橋のうえに立っている。足元の下に流れるのはおびただしい電車の群れだ。激しく行き来するさまは人間の生命力の強さを思わせた。あのなかにも数多くの人間の命があり。尊い今日という日を生きている。 「行こうか」 「……うん」  どこへ行くかなんて決めていなかった。きっと荒西が決めてくれる……いや、決まっていなくともいいのだ。こうして、ふたりでいることに、意味がある。  初めての恋愛に不安な点もあるが、きっと……このひととならやっていける。素直で、勇敢で、まっすぐに――彼女のこころを射抜いたこのひとなら。  クリスマスの幸福を分かち合う人々を祝福するように、東京には、一晩中、白い雪が降り続けた。駅員の努力もあり、電車は平常運転を続けた。基本的にJRは強い。  ―完―
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