285.思わぬ副産物でキラキラ

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285.思わぬ副産物でキラキラ

 湖はまだ沸き立っていた。その脇で水着に着替えたリリスとイヴは、ちょっと浮いている。明らかに場違いな格好だった。 「イヴ、この赤い水にめっ! と出来るか?」 「うん」  大きく頷くイヴは「めっ」と指を差した。当然、魔力を伴わない言葉に威力はない。イヴは自分が何をすればいいのか、いまひとつ理解していない様子だ。どう伝えたものか、悩むルシファーの隣で、リリスは娘を抱き上げた。 「こうしたらどう?」  水着のイヴは、下からの熱い蒸気に足の指をきゅっと丸める。素足なので、熱さがダイレクトに伝わった。 「う゛ぅ」  不満そうに唸るイヴは再び「めっ!」を連発した。今度は魔力が入っていたらしく、イヴの足元だけ無効化される。しかし、すぐにマグマに飲まれてしまった。湧き出るマグマの原因である魔力溜まりに届いていないのだ。 「マグマ溜まりに転移したら、どうだろう」 「結界越しでしょ? それに、イヴが結界を消したらどうするの」 「さすがに熱いな」  ルシファーは眉を寄せるが、普通は「熱い」程度の感想では済まない。一瞬で蒸発するように溶けてしまう。しばらくすれば復活出来るとしても、一時的に仮死状態になるのは間違いなかった。そのままマグマの中を漂うことになれば、数年単位の可能性もあるが……その前に側近達に回収される。  問題は、イヴだった。無効化の力を使えるのも、うっかり結界を消すのも、マグマに耐えられるか不明なのも……全部一人娘に懸かっている。リリスから受け取った愛娘に頬を擦り寄せ、ひとつの作戦を決行した。 「イヴ、この熱い原因をやっつけようか。オレとどっちが早いかな?」  こうなったら勝負を持ちかけよう。母親譲りの負けず嫌いなイヴなら、乗ってくるはず。ルシファーなりに考えた作戦は、思わぬ成果をもたらした。 「だぁ!!」  叫んだイヴが魔力を振り絞る。可視化できるほど強大な魔力を放ち、ミヒャール湖を覆った。沸いていたマグマの熱が冷めれば、金属や土は元に戻る。前回と同じ原理で土が沈み、その上に金属片が降り注ぐ。地中から噴き出した金属は、希少性の高いプラチナが含まれていた。  湖底に降り積もった白金は、美しい輝きを放つ。きらきらと光を弾いて、ミヒャール湖面はプラチナ色に染まった。あまりの眩さに、ルシファーとリリスは目を細める。 「これは凄い……ん? イヴ?」  ぐたっとイヴがのけぞっている。背骨が折れたかと思うほど、立派な曲線を描いていた。驚いて抱き起こし、頬を指先で軽く叩く。 「やぁっ!」  嫌がって首を横に振るので、意識はあった。どうやら魔力の使い過ぎで、倦怠感に襲われたらしい。頑張った愛娘に頬擦りする。 「凄いな、イヴ。オレに勝つなんて、リリス以来だぞ! さすがは魔王の一人娘だ」  褒められてイヴは満面の笑みを浮かべる。得意そうな顔は、やり遂げた証だった。触れ合う肌から、魔力を少しずつ供給していく。強大な魔力をいきなり流せば、調整する間の負担はイヴに掛かってしまう。そのため、イヴの波長に合わせた魔力をゆっくり流した。  この辺は、リリスとのやり取りで学んだ経験が生かされている。 「頑張ったわね、イヴ。具合が良くなったら、水で遊べるわよ」  綺麗になった湖は、以前と違い生き物がいない。透き通った水は湖底まで陽光を通し、幻想的だった。これはこれで、新しい観光資源になりそうだ。ルシファーが感じた通り、ミヒャール湖の新しい姿は魔族に歓迎される。湖の再生はすぐに伝わり、先日の戦艦を模した観光船が浮かび、湖畔はまた賑わいを取り戻した。
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