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06.溢れる贈り物を仕分けるお仕事
ルシファーの部屋を埋め尽くした贈り物は、クローゼットや風呂場も占拠した。それでも場所が足りずに客間を侵食し、最後に謁見の間に並べられる。
「収納に入れたらいいじゃない」
リリスの指摘に、ぴたりと動きを止めたルシファーが「忘れてた」と呟いた。そこからは怒涛の回収ラッシュである。仕事に使う謁見の間にある贈り物を開封し、中身と送り主を侍従のベリアルがメモしていく。可愛い子どもサイズの魔犬族は荷物の間を行き来しながら、確認して記入した。
長くなるリストを引きずるベリアルが、途中で紙束を切って側近アスタロトに手渡す。淡い金髪の美形吸血鬼王は、赤い瞳で内容を辿りながら礼状の作成指示を出した。文官トップのアスタロトの後ろに続く記録係が、ベリアルのリストを複製していく。
「これは……骨? おい、なんの骨か調べてくれ」
プレゼントの種類がよく分からない物を、別に分ける。ルシファーの後ろで恭しく受け取った銀髪のベールが、じっくり確認してから青い目を細めた。聖獣や神獣の王であるベールは、鑑定系の能力がある。しっかり確認して、もう一度確認し直す。珍しい逸品だった。
「陛下、こちらは貴重な虹蛇の頭蓋骨です」
「え? そんな貴重な物をくれたのは……ああ、虹蛇の一族か。え? じゃあ、この骨誰の頭だ??」
先祖の骨ならいいが、誰か殺されてないか。心配になるルシファーだが、さすがに祝いの品を殺して製作しないだろう。虹蛇は治癒能力に長けた大蛇である。名前の通り虹色の鱗が綺麗な種族だが、大人しく穏やかな性質も有名だった。
「彼らに限ってないでしょう」
幻獣霊王の断言に、ルシファーは手を伸ばして骨を受け取った。優しく撫でてから、収納空間に保管する。横から伸びた手が、ぺたりと分類用の札を貼り付けた。
「ベルゼ、今の札は?」
「管理と分類用に作りましたの。数字で管理するんですわ」
経理や財務などを管理するベルゼビュートは、数字の書かれた札を大量に振って見せた。普通に文字を書かせると酷いレベルだが、数字に関しては信用できる。よく見れば、札の数字をリストに書き込むことで、照合しやすくなっていた。
「なるほど。ならば分類は任せる」
謁見の間に広げられた品を片付け、客間を後回しにした。今夜風呂に入る場所を確保するのが先だ。風呂やクローゼットの上を整理し、寝るためのベッドを確保する。ちなみにリリスが王妃の間で寝るのを嫌がったので、一緒に魔王の私室で眠る予定だった。
ベッドの確保は最優先なのだ。以前リリスに使用したベビーベッドや玩具を王妃の間に並べ、代わりに贈り物を収納する。魔王ルシファーの収納空間は豊富な魔力量と比例し、とんでもなく広かった。過去8万年に収納した点数は数えきれない。
死蔵品になった物も数多く、とんでもない時期に思い出して取りだされ騒動になることも少なくなかった。今回は分類して記載したリストがあるので、問題ないだろう。護衛のヤンの息子セーレが届けた毛皮は収納せず、産まれたイヴのベッドに使用された。
アルラウネの献上品は、彼女の曾祖母に当たる人物の根だ。有難く半分だけ受け取った。残りは彼女達が供養して欲しい。オレリアの持ち込んだ種は、庭の温室に植える予定だ。精霊女王であるベルゼビュートが薔薇を育てる温室なので、一緒に管理してもらう。
あれこれと半分ほどを収納に入れたところで、日が暮れた。その時見つけた美味しそうなチョコの箱を、こっそりローブに隠した。これはリリスと食べよう。具合が悪いリリスも、甘い物は好きだから大丈夫だと思う。
「本日の分類作業は終了! また明日、朝食後に集まってくれ」
「「「はい」」」
口々に予定を確認しながら、侍従や侍女が引き上げていく。侍女長のアデーレは、ベッドのシーツを調えてから退室した。残されたのは部屋の主である魔王と、側近の大公達だけ。
「陛下、贈り物ですが……まだ届く予定です。現時点で転移魔法陣を発動する地脈の魔力が不足しており、一時的に転移魔法陣を停止させました」
「ああ、うん。そうだな」
自分が魔力を追加すれば動くんじゃないかと言いかけたルシファーは、慌てて口を噤んだ。たぶん、声に出したらマズイ。本能の警告に従い、曖昧に微笑んで誤魔化す。そんな主君の様子に、アスタロトがにやりと笑った。
「ルシファー様、何か隠しておられますか?」
「い、いや……何もないぞ」
ローブに隠したチョコの箱を見透かされそうで、慌ててルシファーは彼らを部屋から追い出した。
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