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ギシギシと軋む身体に鞭を打って整えた朝食。
本当に酷い目にあった。
「…誉さん、誕生会…ドレスコードとかあるんでしょうか?」
身体は重いがもう頭の中は来月の誕生会の事でいっぱいだった。
「…何でもいいだろ、適当で」
「…」
そうなのだ、霧島はゆこの服に何か言った事が無い。
何を着ていても同じ顔をしている。
霧島自身も、スーツが常で服にあまり興味は無いのだと思う。
彼のクローゼットの中身はセンスが悪いとは思わないけれど、特に選んで吟味したんだろうなと言う雰囲気が無い。
霧島に聞いたのが間違いだった。
「そんなに、気負う程のもんじゃねぇよ」
のんびり咀嚼しながら朝食を食べる霧島を見ながら、ゆこは頭を悩ませる。
霧島の親代わりとも言える人と会うのだ。
気負うに決まっている。
他の組員の奥様方も居るはずで、そことのバランスも知りたい。
目立ちたくないが、貧相でも霧島に恥をかかせてしまう。
女の世界に身を置いていたゆこにすれば、服を決めるのはとても重要な事だった。
遂に箸を止め、一点を見つめ出したゆこを霧島はチラリと見やる。
「俺も…世帯を持ったから、今回参加する…古参の連中が何着てくんのか…わからねぇ」
霧島自身、初めての事なのだ。
ゆこの頭の中は古参の文字で埋め尽くされた。
プレッシャーに早くも押しつぶされそうである。
霧島が出勤したあと、ゆこはダイニングテーブルに座り、携帯を握りしめた。
そして検索する。
「極妻…服装…」
…………。
「これは、違うよね…」
総絞りの着物、しかもいかにもな柄の…。
どう考えてもゆこには似合わない。
それに服だけではない。
各傘下の組を任されている人の奥様は、きっとゆこより肝が座って居るはずで。
店に居る頃に聞いた事がある。
組同士の繋がりを確かにする為に、政略的な結婚も多いのだと。
争いを避ける為の手助けをしているのだ。
もうその時点で、ゆこは力不足だ。
気分は急降下していく。
どちらかと言えば気弱な、護られているだけの自分は霧島に恥をかかせてしまう気がして。
悩んでも仕方ないのだ、今更何も変えられない。
きっと霧島も、ゆこに何か求めている訳では無いのも解っている。
約一ヶ月先の予定が、重くゆこの胸にのしかかっていた。
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