1762人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
キスは、優しく落ちてきた。
何度か、苦しげに薄く開いたゆこの唇を啄んだ。
ゆこの吐息が霧島の唇を撫ぜる。
霧島が角度を変え、小さく濡れた音をたてて深く唇を塞がれた。
微かに煙草の苦味を乗せた舌が、ゆこの舌を捉え甘く吸い上げる。
ピクンと反応したゆこの背中をあやす様に撫ぜる手の平。
「っ…、ん」
鼻だけで息をするしか無くなって、漏れるゆこの声は少しずつ甘くなっていく。
息苦しさは過呼吸か、それとも霧島から与えられるキスのせいなのか。
いつの間にか、ゆこは腰の辺りからせり上がってくるむず痒いような痺れに、体重を霧島の胸に預けていた。
このキスは、ゆこの呼吸を正す為の行為なのか、そうでは無いのか、どこか遠い所でゆこはボンヤリと考えていた。
クタリと力の抜けたゆこの呼吸は、溶けて乱れるそれに変わっていく。
どれくらいそうしていたのだろう。
ゆこをゆったり抱き込んでいた胸で霧島の携帯が震えるまで、それは続いた。
焦るでもなく唇を離した霧島がポケットから携帯を取り出す。
すぐ側で、現実に戻って真っ赤になったゆこを覗き込む瞳。
霧島の目が面白そうに細まった。
唇がゆっくり弧を描く。
初めて見るその表情にゆこが息を詰めた。
(…わらっ、た…)
「あんたの舌…甘いな、飴でも食ってたか?」
ボンと爆発した赤面に、喉の奥で笑った霧島が携帯を耳に当てる。
「ああ…そうか…わかった」
そう返しながら、霧島が不意に手を上げゆこの濡れた唇を親指で拭う。
何から何まで恥ずかしくて、ゆこは赤い顔で俯いて小さくなった。
話しを終えた霧島が、ゆこの膝裏に腕を通した。
ふっ、と息を吐いて軽々とゆこを抱いたまま立ち上がる。
「わ…っ」
慌ててその肩に手を添えたゆこを抱いたまま、大股で店を出た霧島は、そのまま前の道を突っ切って進んだ。
訳のわからないまま、霧島の腕の中で目を白黒させるゆこは、向かいのビルの門前で頭を下げるお辞儀さんに見送られながら連行されたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!