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そのままエレベーターに乗り、連れて行かれたのはビルの最上階の部屋だった。
硬いフローリングのその部屋は、小さなキッチンとローテーブルと大きなソファー。
部屋に見合った大きなテレビだけのスペースだった。
それだけでも広いスペースだったが、部屋の中央には衝立があり、見ることは出来ないが天井から想像するに、向こう側にも同じ位の広さがあるのだろう。
ゆこが足を伸ばしてゆうに寝そべる事が出来そうなソファーに降ろされた。
霧島が一人分の隙間を空けて横に座った。
「さて先生、策を練ろうか」
伏し目がちに煙草に火をつけた霧島が、ゆこと視線を合わせる。
「あの男は、あんたのオトコか?」
赤髪の事だ。
ゆこは間髪入れずに首を振って否定した。
煙を吐いた霧島の視線は、次の言葉を待つようにそのままゆこを捉えている。
「…」
「…」
ゆこは小さく息を吐いた。
助けてもらった。
護ってくれた。
話さない訳にはいかない。
それに、霧島が薫に訊けばわかってしまう話だ。
「霧島さんは、アザレアを…ご存知ですか…?」
ゆこはそう切り出した。
「…ああ」
アザレアは会員制の高級クラブだ。
会員制といっても扱う客は一般客では無い。
政財界の大物や、裏社会の人間。
一晩で何十万、下手をすれば百万単位で金を落としていく様なお客ばかり。
この世界に身を置いている霧島が、知らない筈が無い。
「そこで…働いていました」
霧島の表情は変わらない。
ただ真っ直ぐにゆこの目を捉えていた。
けれどその目の奥に、呆れや侮蔑を見つけるのが怖くてゆこは無意識に目を逸らして俯いた。
「二年前、そこから逃げて来ました。…逃がして、もらいました」
懺悔にも似た気持ちで、ゆこは膝の上の握りしめた自分の手だけを見て、その先の言葉を吐き出した。
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