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「実里さん、気をつけて行ってらっしゃい」
龍と手を繋ぎ二人で手を振って実里を見送った。
今日はあと二人迎えることになっている。
Secret baseは、手作り雑貨の店だ。
ディスプレイコーナーは店の手前に作られて居るのだが、その奥にカウンターと四脚のスツールがあり、二人がけのテーブルも二セットある。
雑貨屋としては珍しいつくりだが、そこでコーヒーと軽い軽食を出しているのだ。
何かを作るのが好きなゆこに取って、どちらが主かと訊ねられれば答え難い。
しかし諸事情により、店内で食べる客は皆無だ。
簡素な紙袋とクリアケースに入れて持ち帰る客に、毎回申し訳ない気持ちになる。
「さて、と」
ゆこは頭の上で結われていたお団子の髪を、ふわりとといた。
柔らかなウエーブの栗色の髪が、重さを感じさせずに背中に落ちた。
クリーム色のシェードカーテンを扉を除いて全て下ろしてしまってから、マスクとフレームの太い黒縁眼鏡も外してしまう。
日中は、このセットを必ず装備している。
ゆこの素顔を知っているのは託児所のスタッフだけかも知れない。
トタトタと上の階から、龍の足音がする。
ご機嫌で遊んでくれていると、こちらまで優しい気持ちになるものだ。
ゆこはカウンターの中に入り、キッチンに立った。
集中し過ぎて昼食をすっ飛ばしてしまったので腹ぺこだ。
ここで夕食を食べて帰ろう。
バケットを軽くトーストし、ベーコンにレタス、アボカドにバジルソースで手早くサンドイッチを作る。
萎れそうなレタスとアボカドをふんだんに入れた
ゆこ専用メニュー、店には出ていない。
コーヒーも入れてまた一人がけの定位置に腰を下ろした時だった。
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