出会い

2/5
1763人が本棚に入れています
本棚に追加
/76ページ
「実里さん、気をつけて行ってらっしゃい」 龍と手を繋ぎ二人で手を振って実里を見送った。 今日はあと二人迎えることになっている。 Secret baseは、手作り雑貨の店だ。 ディスプレイコーナーは店の手前に作られて居るのだが、その奥にカウンターと四脚のスツールがあり、二人がけのテーブルも二セットある。 雑貨屋としては珍しいつくりだが、そこでコーヒーと軽い軽食を出しているのだ。 何かを作るのが好きなゆこに取って、どちらが主かと訊ねられれば答え難い。 しかし諸事情により、店内で食べる客は皆無だ。 簡素な紙袋とクリアケースに入れて持ち帰る客に、毎回申し訳ない気持ちになる。 「さて、と」 ゆこは頭の上で結われていたお団子の髪を、ふわりとといた。 柔らかなウエーブの栗色の髪が、重さを感じさせずに背中に落ちた。 クリーム色のシェードカーテンを扉を除いて全て下ろしてしまってから、マスクとフレームの太い黒縁眼鏡も外してしまう。 日中は、このセットを必ず装備している。 ゆこの素顔を知っているのは託児所のスタッフだけかも知れない。 トタトタと上の階から、龍の足音がする。 ご機嫌で遊んでくれていると、こちらまで優しい気持ちになるものだ。 ゆこはカウンターの中に入り、キッチンに立った。 集中し過ぎて昼食をすっ飛ばしてしまったので腹ぺこだ。 ここで夕食を食べて帰ろう。 バケットを軽くトーストし、ベーコンにレタス、アボカドにバジルソースで手早くサンドイッチを作る。 萎れそうなレタスとアボカドをふんだんに入れた ゆこ専用メニュー、店には出ていない。 コーヒーも入れてまた一人がけの定位置に腰を下ろした時だった。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!