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ミニトマトとか、入れなくてよかった。
(けど、もっとこう…唐揚げとかガツンと入れなくてよかったのかな)
悶々と悩んで一時間ほど経った頃、店の扉が開いた。
細身の上質そうなスーツを着た、霧島の隣にいたあの細身の男だった。
「こんにちは」
(あ、電話この人だったんだ…)
「とても美味しいお弁当でした、と伝言を仰せつかりました」
柔和、だけれどどこか機械的な表情でふわりとゆこに笑いかけた。
男の手には渡した紙袋が握られている。
「あ、はい、ありがとうございます」
カウンターに立つゆこの前まで歩いて来ると、男は人差し指の背でつ、と眼鏡を押し上げた。
「私、村沢と申します、今日はりか先生に折り入ってご相談があって参りました」
名前が誤認されている…。
いや、そんな事はこの際どうでもいい。
相談?
相談って何??
「は、はい?」
「これから毎日、昼に弁当を作って頂けませんか?…ああ、もちろん営業日のみで結構です」
きっと、ゆこの目はまん丸で結構な大きさだったと思う。
眼鏡で相手が正確に認識していたかは疑問だった。
優しげな銀縁眼鏡の村沢は、細身でスラリとしていてどこぞの敏腕秘書という出で立ちだ。
まあヤのつく人な訳で、そうで無いのは確かだけれど。
「材料の購入は、これで」
胸ポケットから差し出されたのは、ブラックカード。
固まっているゆこに、追い打ちをかける様に村沢はにっこりと笑った。
「明日は唐揚げを入れて頂けると助かります…それと今日と同じきんぴらを。…絶品だそうです」
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