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1.平凛、生徒会に誘われる
転校の手続きが終わり、平凛が学校に通いだして数日経ったある日、平凛は生徒会室に呼ばれた。
平凛が転校後、成績がとてもいいという噂は、校内に一気に広がっていたようだ。誰が漏らしたのか知らないが、平凛には迷惑な話だった。
生徒会室に入ると、ちょっとチャラそうな男が、
「やあ、神宮寺さんだね。ボクは生徒会長の新橋颯斗です。転校早々で悪いと思ったけど、来てもらってすまない。君はとても成績がいいそうじゃないか。そういう人には是非とも生徒会に入ってもらいたいんだ。まぁこっちに座って…」
と言ってさりげなく手を引き、エスコートしてきた。
平凛は正直気持ち悪かったので、
「私に触れないで下さい」
と言って手を引っ込めた。
「あー、ごめんごめん、悪気はなかったんだ」
「話というのは何でございましょう?」
「さっきも言ったけど、是非とも生徒会に入ってはもらえないかな?君の力が必要なんだよ…」
平凛はこういうチャラいナンパ男が大嫌いだったので断ろうと思っていたら、
「神宮寺先輩!」
と、とても背の低い、ぱっと見小学4年生くらいの女性が走り寄って来た。
「私、神宮寺先輩に憧れています!」
と言ったが、平凛は何で小学生がいるのか不思議で、思わず
「小学生?」
「違います!中学1年です!」
「え?そうなんですか?」
「そうなんです!先輩はいいですよね、モデルさんみたいだし、とても奇麗だし頭はいいし…。そんな先輩に私、小学校のころから憧れていました。私も海の街出身の山吹紫織と言います。是非とも生徒会に入って下さい!」
後の見えないところでチャラ男は、こっそり親指を立てていた…。
平凛は一つため息をつき、
「生徒会に所属するのはやぶさかではございません。ですが一つだけ条件がございます」
「何ですか?」(オレとデートがしたいんだな?)
とチャラ男は思った。ところが平凛は、
「どんなことがあっても、午後4時には下校する用がありますので、それでよければ入ります」
と言った。
チャラ男は見当が外れ、
「何か用があるんですか?」
と聞いてみた。
「花嫁修業があるんです」
平凛はここ数日、ももっちに付いて食事を作る時に料理を習っていた。
ももっちが午後4時過ぎごろに料理を始めるために早く帰りたいと言ったのだった。チャラ男は、
「え!?どういうこと?」
と聞き返した。
「私には婚約者がおりまして、あと3年で結婚する予定があるんでございます」
「は!?」
チャラ男と紫織は二人で目を丸くした。
ですから夕方にはダンナ様のお食事を作らないといけないんです」
「ダ…ダンナ様…?もう一緒に住んでいるの?」
「ぁ…今のは聞かなかったことにして下さい…」
「ダメだな…。そんな重大な事が学校側にバレちゃったら、きっと退学になるだろうな」
義務教育中に退学になることなどあり得ない。チャラ男は少しでも平凛の弱みを握りたいためにそう言った。平凛は、
「あなたはバカなんですか?中学生が退学になるわけないでしょう…。こんな人が生徒会長やってて、この学校は大丈夫なんですか?信じられない…」
「グハッ!」
チャラ男はもう何も言えなくなってしまった…。
「キャー!」
と小さく紫織は叫び、そして感動してしまった。
今まで生徒会長という立場を利用して好きなことをやってきた男がヘコんだのを見て、胸がスッキリした紫織だった。
「私はこれから神宮寺先輩に付いて行きます!」
紫織はそう言って平凛の腕に絡んできた…。
身長どおり、体重も軽いのか、全体重を平凛の腕にかけても、ぶら下がることができそうだ。
ということで、平凛は一応条件付きで生徒会に入ることになった…。
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