3.平凛の大晦日

3/3
前へ
/11ページ
次へ
 私は、 「ダンナ様、私は「初詣」というものをした事がありません。どうか連れて行って下さいませ」 と頼んでみた。ダンナ様はすぐに、 「お?そうなのか?よっし、年明け早々にいっちょう皆で初詣にくり出すか!」 と皆まで誘い出した…。(二人っきりで行きたかったのに…。でも、これがダンナ様のいい所でもあるのね)と私は考え直すことにした。 「行く行くー!」 と優菜(ユナ)が真っ先に手を挙げ、次に 「(わたくし)もよろしいでしょうか?」 とももっちが続いた。 「では出発は今夜11時30分な。車で行くけどオレの知り合いの所に置かせてもらうよ」 「ハーイ!」 と元気な返事をしたのは優菜だった。 「それと一つよろしいでしょうか?」 ももっちが何か言いたいらしい。 「今夜の食事の事ですが、午後6時に軽めの食事をご用意致します。その後午後10時に年越しそばをご用意致しますので、その時間には、ここにお集まりくださいませ」 と言った。それを聞き私は、 「ダンナ様、「年越しそば」っていったいなんでしょうか?」 と言うと、全員が驚いたような顔をしていたが、ダンナ様は、 「あぁ平凛、これは家庭によって違うんだが…」 と前置きして、 「年越しそばという、まあお蕎麦(そば)だな。夕食として食べたり、年が変わる前に食べたり、そういうのは自由なんだが、一年の厄災を断ち切り、細く長く長寿を祈って、という説があるそうだ。まあ1年を無事に過ごせた感謝と新たな年への期待・祈りなどを込めて食べる、というとこになるのかな。平凛は今年は皆の仲間となったし、ここはひとつの家族と思っていいんだ。だから皆と一緒に食べるのさ。オレの婚約者でもあるしな」  私は今まで「仲間」だとか「家族」、また「婚約者」などとは縁遠いところにいたので、ダンナ様の言葉は一つ一つが心に沁み込んでいき、そして新鮮に感じられて涙が自然とぽろぽろと落ちて来た…。 ダンナ様を除く全員が、 「さーてと…」 などと言って席を立ち、部屋から出て行ってしまった…。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加